2010年7月13日火曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (3) 「沙流川・静内・鳧舞」

 


鳧舞についてはアイヌ語地名の傾向と対策 (331) 「鳧舞・シュムロ川・本桐」も、また静内についてはアイヌ語地名の傾向と対策 (340) 「静内・元静内」もご覧ください。

「アイヌ語地名の傾向と対策」が途中で止まっているので、久々に稿を進めてみましょう。えーと、「二風谷」(にぶたに)で止まったままでしたよね、確か。



沙流川(さるがわ)

sar は北海道のあちこちに散見される名前で、一般的には「湿原」「葭原」の意だとされます。山田秀三さんの「北海道の地名」p.360 によると、沙流川の下流には大きな「葭原」が広がっていたことが「沙流川」の語源だ、とあります。

ちなみに、sar は「道内各所に散見される」と書きましたが、「沙流川」と人気・知名度を二分するのが、知床観光のベースキャンプとしても有名な斜里郡斜里町です。どちらの sar も有名なので、混同を避けるために、「斜里」のほうを pinne-sar(男性のサㇽ)、「沙流」のほうを matne-sar(女性のサㇽ)と言って区別したのだそうです。

「沙流川」は、隣の「鵡川」とは「夫婦河川」(?)のようなもので、「沙流川」の愛称が「シシㇼムカ」(男の鵡川)、そして「鵡川」の愛称が「モ・ムカ」(女の鵡川)だった、なんて言い伝えもあるそうです。つまり、「斜里」と「沙流」の対比では「女」とされた沙流川ですが、「沙流川」と「鵡川」の対比では「男」役になっているわけで、アイヌ語におけるこの辺の「擬人化」は絶対的なものではなく、むしろ相対的なものであることがこのことからも窺い知れます。

……うわーっ、語っちゃってますねぇ(←

静内(しずない)

「静内」という地名は、もともとは今の「元静内」一帯(約 10 km ほど先)を指す地名だったのが、いつしか現在の位置を指す地名になって今に至るのだそうです。「元静内」という地名は、今では国道 235 号線の「元静内橋」に残るのみ……でしょうか。

で、現在の「静内」は、もともとは「シベチャリ」あるいは「シピチャㇻ」と呼ばれていたのだそうです。いつ「静内」がお引っ越ししたのかはちゃんと調べていないのですが、アイヌ語辞典に「シピチャㇻ = 静内のこと」と書いてあるくらいなので、アイヌの人びとにとっては、あのあたりの土地は「シピチャㇻ」だと認識されていたと考えるのが自然です。江戸後期、あるいは明治に入ってからなのかも知れませんね。ちなみに「シビチャリ」には「染退」という字が当てられたそうです。「しみ・さがり」で「シビチャリ」。昔の人の想像力に乾杯!ですね。

肝心の「静内」ですが、意味が今ひとつ釈然としません。「静内」→「シツナイ」→「シ・フッチ・ナイ」(大祖母の川)という説が昔から言われていたようですが、永田方正は「『シ・フッチ・ナイ』説もあるけどホントは『シュトゥ・ナイ』で『葡萄沢』という意味だ」としています。shutu に「ブドウ」という意味があるのかは良く分かりませんが……(手元の「アイヌ語千歳方言辞典」を見た限りでは確認できず)。

鳧舞(けりまい)

「これは読めないだろう(ニヤリ)」と思っていたところ、あっさりと正解を言い当てられてしまって大層驚いたわけですが、それはさておき……。

この「鳧舞」、もともとは「ケリマㇷ゚」または「ケリオマㇷ゚(ケロマㇷ゚)」だったそうです。「ㇷ゚」の音は日本語には無かったので、このように落とされることも良くあるようです。肝心の意味は残念ながら諸説あるようで、keri-oma-p(靴のある所)、kero-oma-pヒザラガイのある所)、keni-oma-p(ヒルガオの根のある所)などが挙げられています。

ちなみに、この「」(けり)ですが、部首の通り鳥類の一種です。

甲高い声で鳴き、「キリッ、キリッ」、「ケリッ」、「ケケッ」というふうに聞こえる。この鳴き声からケリという名がついたといわれる。
(Wikipedia 日本語版「ケリ」より引用)

ということだそうで、「地名の意味がわからなかったら、とりあえずそんな鳴き声の鳥がいたことにすれば良い」という知里真志保博士の有名なジョークがありますが、「鳧舞」はそれを地で行くことになりますね(笑)。

あと、「けりをつける」「けりがつく」という言い回しがありますが、この「けり」に「鳧」の字を当てる(もちろん、本来はそのような意味は無い)ことがあるそうです。このように見てみると、明治時代に北海道の地名に漢字を当てた人にはインテリが多かったんだなぁ、と改めて思わせます。

本日の記事も、山田秀三さんの「北海道の地名」(草風館)を全面的に参考にさせていただきました(謝)。

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