2010年11月16日火曜日

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北海道のアイヌ語地名 (26) 「無煙・聚富・花畔」

 

ラストスパートだぁぁぁっ!(←

無煙(むえん)

hura-wen-tomari?
臭い・悪い・泊地
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
思わず「……ロースター?」とツッコミを入れたくなるような地名ですが、これがまた意外と謎に満ちている……ような、はたまたそうでもないような。

この「無煙」ですが、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみると……載ってませんでした(←)。こうなっては仕方がありません。「角川──」(略しすぎ)を見てみましょうか。

……見つかりません(←)。どうやら「無煙」は行政地名?では無いようで、情報も乏しいようです。少しググってみると……ふむふむ? 「無煙浜」は、「無縁仏が多く漂着したから無煙浜」とありますね。となるとこれはまさかの非アイヌ語地名なんでしょうか。

臭いが多い

もう少しググってみますと……、どうやらこの辺りは、もともと hura-at-tomari と呼ばれていたのだそうです。この場合の "at" は「おひょう(楡)」ではなく、「~が多くある」という意味のほうですね。hura-at-tomari で「臭い・が多くある・泊」なのだそうです。さて、どんな臭いが多いのでしょうか。

実は、この辺りには嘗て油井があったのだそうです。日本の油田と言えば、新潟や秋田あたりに小規模なものがあったくらい、だと思っていたのですが、石狩にも油田があったのだとか。道内にはほかにも「石油沢川」なんて川もあるくらいですから、それほど突拍子のない話でも無いのかも知れません。採算ベースには乗らないんでしょうけど……。

日本における無煙化の歴史

日本で最後まで蒸気機関車が営業運転されていたのが「国鉄夕張線」(今の「石勝線」)だったのですが、1975 年に蒸気機関車の運転は終了し、国鉄の「無煙化」が達成された、とされています。なるほど、そういった意味では「石油」=「無煙化」という符合は面白いのですが、……おそらく全く関係ないです(←

「臭い」=「悪臭」?

そもそも、地名に「無煙」というのはあまりにおかしいので、ここはやはりアイヌ語地名だったと考えたくなります。しかしながら、「フラアットマリ」あるいは「フラトマリ」が「ブラタモリ」になったのであればまだしも、「ムエン」に転訛するというのはちょっと無理があります。

現地では未だに「油の臭い」が鼻に付くとのことらしく、「臭い・が多くある・泊」の「臭い」は「油の臭い」と考えて良さそうです。「(油の)臭い」が「悪臭」に進化した?とすれば、hurahura-wen となります。「無煙」のアイヌ語地名解としては、hura-wen-tomari の "wen" だけが残った、とする考え方と、mu-wen-tomari? で「(砂で)塞がった・悪い・泊」の下略形である、という考え方などがあるようです。後者の wen も油井に由来すると考えてよさそうですね。飲み水にもなりませんし、魚も棲めませんし。

聚富(しっぷ)

suop
(典拠あり、類型あり)
考えに自信が無いと、それを補強するためにダラダラと文章が長くなるものです。先ほどの「無煙」なんかは、まさに好例(悪例?)ですね……。さぁ、すっきりハッキリと行きましょう!

……「聚富」ですが、読み方がはっきりしません(←)。山田秀三さんは「しゅっぷ」とルビを振っていましたが、今では「しっぷ」と読むようです。

古くは「しゅっぷ」「しょぷ」とも言った。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.653 より引用)
えぇい、もーどーでもええわいっ!(←

ただ、読みはさておき、原義ははっきりくっきりとしているようです。曰く、suop で意味は「」とのこと。知里真志保さんの説では「両岸が絶壁で川底が岩の箱の形になって青く水をたたえている所」となるようです(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.126 より引用)。

確か、知津狩川の上流の方に箱形の谷がある……という話をどこかで見たような気がするのですが、出所不明です。すいません。

花畔(ばんなぐろ)

pana-un-gur-yas-otke
川下に・いる・男・流し網・をかける
(典拠あり、類型あり)
アイヌ語地名におけるジャン=クロード・ヴァン・ダム的な地名です(全く以て意味不明)。

「ばんなぐろ」は、もともとは「ばなんぐろ」だったのがいつの間にか「な」と「ん」が入れ替わって……と言うところまでは知っていたのですが、そういえばどんな意味だったかな、と。ふむふむ、

地名は,アイヌ語のパナウングルヤソッケ(川下の人の漁場の意)に由来し,夕張地方のアイヌが名付けたという(北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1200 より引用)
なるほど。pana-(u)n-gur-yas-otke ということのようです。意味は「川下・にいる・男・流し網・をかける」といったところでしょうか。このままでは地名として変な気がするので、もしかしたら -usi(「いつもする所」) が下略されているのかも知れません。

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