2011年3月20日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (37) 「美馬牛・美瑛・神楽・旭川」

 


本日も、道央の美しい地名の話題をお届けします。


美馬牛(びばうし)

つい馬刺しやユッケが恋しくなる地名ですが(←)、アイヌ語では間違いようのない地名です。pipa-us-i で「からす貝・多くある・所」ですね。同様の地名はほかにもあって、例えば平取町二風谷の北隣の村落は、そのものずばり「ピパウシ」と言います。

ちなみに、「からす貝」と「ムール貝」が混同されるケースがあるようですが、全くの別物です(ムール貝は外来種ですから)。

美瑛(びえい)

たまーに「美瑛」と「美深」がごっちゃになるのですが……、「美瑛」は旭川の南、ですね(「美深」は旭川の北)。

美瑛も富良野と同じく、ゆるやかな丘陵地が見る者の目を愉しませてくれる素敵なところなのですが、もともとは piye に由来するのでは、と考えられているようです。意味は「油っこい」なのだとか……。山田秀三さんの「北海道の地名」から引用しておきましょう。

 上川盆地の南東端十勝岳から流れて来て旭川市街のすぐ西側で忠別川と合流している大川の名。永田地名解は「ピイェ piye。油。水源に硫黄山(注:十勝岳)ありて水濁り脂の如し,故に名く。古へは単流して石狩川に注ぐ。今,東川(注:忠別川のこと)に合流す」と書いた。ピイェは油っこい,油ぎっているという意(地名アイヌ語小辞典)。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.109-110 より引用)

要するに、富良野が「臭い・ところ」と言われたのと根っこは同じのようです。もともとはこんな意味でも佳字が当てられると雰囲気が変わるものですね。

神楽(かぐら)

旭川空港のあたりの大地名ですが、山田秀三さんの「北海道の地名」によれば、もともとこのあたりは「ヘッチェウシ」という名前だったのだそうです。hetche-us-i ですね。

hetche というのはあまり聞かない単語ですが、意外なことに知里さんの「地名アイヌ語小辞典」にも掲載されています。

hetche へッチェ 《完》歌舞のあいまに‘ヘイッ! ヘイッ!’とはやしを入れる。[<het-se(ヘッ・という)]
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.29 より引用)

ですから、hetche-us-i で「歌舞を・いつもした・ところ」といった意味になりそうです。この辺の詳細は山田秀三さんの「北海道の地名」に鋭い洞察がありますので、ささっと引用させて頂きましょう。

 だが今の広い神楽地域のどこがこの地名の発生地だったか,全く忘れられた。人が集まってお祭りをし,お祭りにつきもののユーカラや踊りをして,皆が声を合わせて囃したのだとすれば,忠別川の崖の上の広場がその場所だったろう。今の神楽岡公園か,その付近がヘッチェウシで,それから神楽の名ができ,この辺一帯にそれが拡がったのではなかろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.107 より引用)

なかなか興味深い分析ですね。

旭川(あさひかわ)

「旭川」については、2009/4/28 にも「日の出の川は波打っていたか」という記事で取り上げていますので、よろしければそちらもご覧ください。

ポイントは、現在の「忠別川」がアイヌ語ではどう呼ばれていたかというところでして、永田方正翁は chup-pet(「日・の川」)であるとしました。更に chup-petchup-ka-pet(「日・のかみ・の川」=「東の・川」)であるとして、ここから「旭川」という地名を意訳したとされます。

ただ、果たして「忠別川」が chup-pet であったかは議論の的となったようで、例えば知里真志保さんは chiw-pet で「波立つ・川」だったとしますし、山田秀三さんは chuk-pet で「秋・の川」だったのではないか、という説も(控えめながらに)唱えられていました。

というわけで、実際の所はその語源が詳らかではないようなのですが、山田さんは「北海道の地名」に秀逸なコメントを残されていますので、それを引用しておきましょう。

 旭川は発生的には永田方正の誤訳であったようではあるが,とにかく1890年からのその独特な美しい名で歴史を重ねて来て,今では北国を飾る立派な地名である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.99 より引用)

これについては全く同感です。

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