2011年5月1日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (47) 「野塚・余別・沼前・珊内」編

 

「傾向と対策」も、だんだんと泊村に近づいてきました。今日も軽めのネタから脱線ネタまで微妙な品揃え(←)でお届けします。

野塚(のづか)

not-ka?
岬・の上
nupka?
原野
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
アイヌ語で not(ノッ)は「岬」を意味します。「野寒布」や「納沙布」などが有名どころですが、実は「野島岬」や「野間岬」とか「野母崎」といったものも全国各地に点在していたりします。これらが偶然の一致なのか、それともそうで無いのかは、……どうなんでしょう?(ぉぃ)

さて「野塚」です。「のづか」も、実は道内各所にある地名らしいのですが、積丹町野塚は二通りの解釈があって判然としないようです。

現在の野塚町は原野にあるので,地名のノツカもアイヌ語のヌプカ(原野の意)によるものと考えられるが,本来は市街地西部で日本海に突き出たノツカ(岬の上の意)に由来すると思われる(北海道蝦夷語地名解・北海道の地名)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1136 より引用)
今日も手を抜いて「角川──」から孫引きです(←)。えーと、not-ka で「岬・の上」という意味ですね。そして nupka は「原野」、あるいは「野原」という意味になります。地勢を見る限りでは nupka に軍配を上げたいところですが、なにしろ「岬」が近いので、not-ka も捨てきれないといったところでしょうか。

ちょっとした余談(R20)

ちなみに、アンカレッジから東京に向かう飛行ルート(R20)のウェイ・ポイントにも nokka というものがありました。ウェイ・ポイントは cairn mountainbethelnabienukksneevaninnonippinytimnokkanoho という順番なのですが、これ、どこから名づけているんでしょうね。案外、アレウトやアイヌの語彙から無作為に抽出しているだけだったりして……。

余別(よべつ)

i-o-pet?
アレ・多くある・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
さぁ、これまた問題地名が出てきました。今回も「角川──」を見てみましょう。

地名は余別川の川名に由来し,
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1599 より引用)
ここまではもちろん異論はありません。

アイヌ語のユオペツ(鮫ののぼる川の意)による説(積丹町史)やイ・オ・ペッ(それ・多くいる・川の意)による説(北海道の地名)がある。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1599 より引用)
ユオペツ……。yupe-ot なら「チョウザメ・多くある」なんですけどね。そうか、yupe-ot-pet で「チョウザメ・多くある・川」と考えたのでしょうか。i-o-pet は、伝統的な解釈では「それ・多くある・川」ですが、個人的には「アレ・多くある・川」としたいところです。i は即ち「口に出すのも憚られるもの」ですから、「それ」よりもカタカナで「アレ」が適切ではないかと(笑)。ここで言う「アレ」は「マムシ」あるいは「ヘビ」と考えるのが妥当なようです。

「角川──」の記事はまだまだ続きます。

江戸期は余別川をレホナイと称しているが(廻浦日記・西蝦夷日誌),これはアイヌ語のレプオナイ(三股の川の意)の略言である(北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1599 より引用)
えーと、rep-o-nay で「三つ・ある・川」じゃないか、ということのようです。そういえば最近、世界のナベアツって見かけませんよね(それがどうした)。

沼前(のなまい)

noma-oma-i
うに・そこにある・所
(典拠あり、類型あり)
素で「のまない」とルビを振りそうになりましたが、「のなまい」が正解です。幸いなことに由来は明瞭なようで、nona-oma-i で「うに・ある・所」だと考えられています。

それにしても、これは「のまない」という読みが残されていたので助かった例ですね。「ぬままえ」から noma-oma-i に辿り着くのはかなり大変そうです。

珊内(さんない)

san-nay
(山から浜へ)出る・川
(典拠あり、類型あり)
山田秀三さんが興味津々だった san 系地名の代表格ですね。これも道内各所に点在するのですが、「サン」に対して「珊」の字を当てることが多かったのはどうしてなのでしょうか。うーん、佳字なんでしょうかね?

その由来は san-nay で「(山から浜へ)出る・川」ではないかとのこと。何が山から浜に出たのかは詳らかではないですが、山田秀三さんは次のような仮説を記しています。

 この珊内の地形を見ると,川口から約 2.5 キロは一本川であるが,そこから上は 5 本の川が半円形に開いていて,降水面積がえらく広い。大雨だとその水が一度に下の一本川に集まって急に水量が増える川だったのではないかと思い,行って聞いた。「この川は奥が深くて急斜面が多く,横の方からも水が集まっていて,大雨だと鉄砲水が出る。雨がやんだのに急に水量が増えたりする」とのことだった。
 少なくともこのサンナイは,水が・出る(流れ出す)川と解してよいのではないかと思った。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.479 より引用)
はい。鋭い見立てだと思います。

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