2012年3月31日土曜日

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イザベラ・バード「日本奥地紀行」を読む(第22回)

 


1878/6/7 付けの「第四信」より、「伊藤少年大いに語るの巻」(←)をお届けします。

伊藤の第一印象(続)

通訳 兼 召使いの人選に苦心していたイザベラのもとにやってきた伊藤少年でしたが、その登場の仕方は決して颯爽としたものではなく、むしろその真逆のものでした。

彼は、年はただの十八だったが、これは、私たちの二十三か二十四に相当する。背の高さは四フィート一〇インチにすぎなかったが、がにまたでも均整がよくとれて、強壮に見えた。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.46-47 より引用)

とりあえず、外見面ではイザベラの毒舌も控えめだったようです。4 フィート 10 インチと言うと、Google さんによれば約 147.3 cm ということだそうで。確かに昔の人は小柄でしたが、伊藤少年はその中でも小柄な方だったようですね。

顔はまるくて異常に平べったく、歯は良いが、目はぐっと長く、瞼が重くたれていて、日本人の一般的特徴を滑稽化しているほどに思えた。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.47 より引用)

はい(笑)、イザベラ姐さんの調子が上がってきたようです。……でも、一概にイザベラの毒舌を責めるのもお門違いで、言われてみれば日本人はみーんなこんな顔のような気もします。

私はこれほど愚鈍に見える日本人を見たことがない。しかし、ときどきすばやく盗み見するところから考えると、彼が鈍感であるというのは、こちらの勝手な想像かも知れない。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.47 より引用)

イザベラの観察眼は相変わらずの鋭さを見せていますね。実際の所、この伊藤少年はかなりのやり手で、抜け目ない性格だったようです。イザベラから見た(従って 100% 事実であるかどうかは不明ですが)伊藤少年の所行の数々は、この後何度か描かれることとなります。

彼の言うところでは、米国公使館にいたことがあり、大阪鉄道で事務員をやったという。東のコースを通って北部日本を旅行し、北海道(エゾ)では植物採集家のマリーズ氏のお伴をしたという。植物の乾燥法も知っており、少しは料理もできるし、英語も書ける。一日に二十五マイル歩ける。奥地旅行なら何でも知っているという。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.47 より引用)

えー、25 マイルは、約 40 km なのですが、それはさておき。「彼の言うところでは──」という書き出しに、イザベラの伊藤少年に対する疑いの目がアリアリと出ていますね。ただ、仮にこういった経歴の数々が全部デタラメだったとしても、こういった雇い主が喜ぶであろう経歴を並べてくるあたりは徒者ではありません。そう、この少年は抜け目が無いだけではなく、なかなかに優秀な人物なのですね。

この模範的人物を気どった男は、推薦状を持っていないのを「父の家に最近火事があって、焼いてしまった」と弁解した。マリーズ氏は手近にいないので、聞くわけにもいかなかった。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.47 より引用)

この推薦状を紛失した経緯についても、いかにも胡散臭いのですが、さりとてイザベラは確かめるすべを持たないわけです。ここまできっちり計算して話を組み立てているのだとしたら、これはなかなかの傑物です。

それよりもまず、私はこの男が信用できず、嫌いになった。しかし、彼は私の英語を理解し、私には彼の英語が分かった。私は、旅行を早く始めたいと思っていたので、月給十二ドルで彼を雇うことにした。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.47 より引用)

イザベラが伊藤少年のことを「信用できない」「嫌い」と感じたのはごもっともです。ただ、この胡散臭いこと極まりない伊藤少年は、英語力の面ではイザベラのお眼鏡に適う実力の持ち主だったようで、それが幸いして無事採用されることとなります。

まもなく彼は契約書を持って戻ってきた。その書類には、約束の給料に対して神仏に誓って必ず忠実に仕える、と書いてあった。彼はそれに印を押し、私は署名した。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.47 より引用)

この契約書を、一体誰が作ったのだろうかという疑問も出てくるのですが、とりあえず伊藤少年は契約書に捺印し、イザベラは契約書にサインしたのでした。雇用関係の成立です。そして……

次の日に彼が一カ月の給料の前払いをしてくれというので私は払ってやったが、ヘボン博士は、「あの男は、二度と姿を見せないかもしれないね」と私を慰めるようにして言った。
(イザベラ・バード/高梨謙吉訳「日本奥地紀行」平凡社 p.47 より引用)

抜け目の無い伊藤少年は、いきなり給料の前払いを依頼してきたのでした。気っぷのいいイザベラ姐さんは、伊藤少年に 12 ドルを前払いしてしまいます。給料を前払いしてもらって意気揚々と立ち去った伊藤少年。果たして彼はイザベラの元へ戻ってくるのでしょうか!? 緊迫の続編は……またそのうちに。


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