2012年11月10日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (87) 「花咲・長節・昆布盛」

 

ここからは、根室本線沿いのアイヌ語地名を見ていきましょう。

花咲(はなさき)

poro-not
大きな・岬
(典拠あり、類型あり)
JR 根室本線は、滝川から根室まで 443.8 km もある長い路線ですが、釧路から根室までの 135.4 km は「花咲線」という愛称がつけられています。この「花咲」は「花咲ガニ」でもお馴染みの、根室市花咲に由来する……んでしょうかねぇ?(誰に聞いている

「花咲」という字であったり「はなさき」という音からは、アイヌ語由来では無く和名のようにも思えるのですが……。山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

 上原熊次郎地名考は「此地名故事相分からず」と書いた。アイヌ語では読めないからだったろう。永田地名解は「花咲郡。元名ポロ・ノッ poronot。大・岬の義(注:今の花咲岬)。花咲は鼻崎(はなさき),即ち岬の義。ポロノッの俚訳」と書いた。「岬の鼻の先」の意だったか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.243-244 より引用)
というわけで……。比較的珍しい、意訳によるアイヌ語地名だったのでした。poro-not で「大きな・岬」ですが、もしかしたら poro-not-etok で「大きな・岬・出鼻」だったのかも知れませんね。

長節(ちょうぼし)

chi-o-pus-i?
我ら・そこで・破裂する・所
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
根室から落石に向かう途中の地名で、「長節湖」のあるところですね。もともとは「ちょうぶし」だったのが、いつしか「ちょうぼし」になったと言うのですが、逆ならまだしも、ちょっと不思議な感じがします。

今回も「北海道の地名」を見てみましょうか。

 花咲の南の海岸地名。長節湖と長節小沼が並んでいる。根室半島の根もとの処は西から温根沼,東から長節湖がせばめていて,陸地は 1 キロ弱くらいの処があり,国道も国鉄根室本線もその狭いところを通り抜けている。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.244 より引用)
あまりに的確な前フリなので、そっくり引用させていただきましたが、一点面白い記述がありますね。「国道も──その狭いところを通り抜けている」とあるのですが、現在は国道は「温根沼大橋」経由になっています。昔は国道 44 号も昆布盛経由だったのでしょうか。だとすると随分と遠回りを強いられていたことになりますね。

続きを見てみましょう。

 上原熊次郎地名考は「チヲブシ。おのづから破れると訳す。此沼折節自然と破れる故字になすといふ」と書いた。つまりチ・オ・プシ・イ(我ら・自ら・破る・もの→破れるもの)と解した。水量が増すと沼が自然に破れる湖沼はよくある。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.244 より引用)
ふむふむ。chi-o-pus-i で「我ら・そこで・破裂する・所」となりますね。これはもっともな解に思えるのですが、異説もあるようでして、

 永田地名解は「チェㇷ゚・ウシ。魚処。二沼あり。沼中にボラ魚多し。今人チヨープシと云ふは非なり」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.244 より引用)
というわけで、永田方正翁は chep-us-i で「魚・多くある・処」としています。ちなみに、「長節」という地名は十勝にもあるのですが、そこでは永田翁も chi-o-pus-i 説を採っているようです。

続きを見てみましょう。

 長節湖は,現在は川になって流れて海に注いでいる。現地で昔からの地形や旧事を調べて以上二説を検討したいと思いながらそれを果たせないでいた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.244 より引用)
うーん、偶然ふらっと通りかかった土地なのですが、なかなかの難題?を抱えた地名だったのですね。仮に「どっちなの?」と聞かれたら、chi-o-pus-i 説を選びますね……。いや、永田地名解を信用してないからでは無いのですが。

昆布盛(こんぶもり)

kompu-moy
昆布・湾
(典拠あり、類型あり)
落石(おちいし)の手前にある集落の名前で、東側で太平洋に面していて、漁港もあるところです。「角川──」(略──)を見てみましょう。

古くはコンブモイ・コンフムイ・コンブモヱなどといい,昆布森とも書いた。根室地方南東部,太平洋沿岸部。北西に温根沼,北に長節(ちようぼし)湖があり,海上にはユルリ島・モユルリ島がある。地名は,アイヌ語のコㇺプモイ(昆布湾の意)に由来(北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.574 より引用)
というわけで、アイヌ語でも「昆布」は「コンブ」なのでした。これは、日本語の「昆布」がアイヌに伝わったもののようです(アイヌ語には sas という「昆布」を指す単語も別に存在していたようなので)。

ここの「昆布盛」は、他の地名に見られる異論や異説は無いに等しく、素直に kompu-moy で「昆布・湾」と解釈して良さそうです。

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