2012年12月1日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (93) 「厚岸・門静・尾幌」

 


今回は、厚岸町内の地名を三つほどご紹介します。



厚岸(あっけし)

厚岸と言えば……牡蠣ですよね! ということで、今回は「バチラーさん」こと John Batchelor さんの「アイヌ地名考」を見てみましょう。

アッケシ イ Akkesh-i
「牡蠣の場所」。此地には牡蠣の漁場あるが故に此の名あり。アッケシ (akkesh) は「牡蠣」、 (i) は位置を示す助辭なり。
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 附録 p.3 より引用)

アイヌ語で「アッケㇱ」は「牡蠣」の意味だ、というのですが本当なんでしょうか。手元の辞書を見た限りでは、そのような貝は、じゃなくて解は見当たりません。この「バチラー説」については、山田秀三さんも「たぶん語呂合わせであろう」と切り捨てています。

バチラーさんのアイヌ語地名解は、残念ながら、現代の「トンデモアイヌ語地名解」への礎を築いてしまったと言えるところがあります。「富士(山)」アイヌ語説なんかも、オリジナルのネタはバチラーさんだったと記憶しています。

さて、厚岸の美味なる牡蠣に思いを馳せつつ、本題に戻りましょう。山田秀三さんは「北海道の地名」の中で次のように記しています。

 上原熊次郎地名考は「夷語アツケウシなり。則あつし革を剥ぐ処と訳す」と書いた。アッ・ケ・ウㇱ・イ(at-ke-ush-i おひょう楡の皮を・剥ぐ・いつもする・処)の意。この解は今も引きつがれている。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.257 より引用)

at の解釈にはちょいと注意が必要で、たとえば heroki-at... で「ニシン・多くある──」となる場合があります。また、ar(「もう一つの」)の音韻変化形の場合もあるのですが、ここは素直に「おひょう(楡)の皮」と見て間違いないでしょう。at-ke-us-i で「おひょう(楡)の皮・剥ぐ・いつもする・所」となります。

門静(もんしず)

厚岸の西隣にある地名です。あまりアイヌ語っぽくない地名ですが、さてさて……。今回も「北海道の地名」を見てみます。

 厚岸町内。厚岸湾北西隅の処の地名。根室本線門静駅あり。松浦図はモエシユツと書いた。永田地名解は「モイ・シュッ。湾の・傍」としたが,シュッ(shut)は「根もと」の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.258 より引用)

なるほど。これは素直に moy-sut で「入江・根もと」と考えて良さそうですね。


尾幌(おぼろ)

門静駅の西隣にある地名で、ここも厚岸町内です。これはいかにもアイヌ語地名っぽいのですが、果たしてどんなものでしょうか。こちらも「北海道の地名」から。

 厚岸町内の川名,地名,国鉄駅名。尾幌川は釧路郡釧路村との境から出て長く東流し,厚岸湖の北西隅まで行って,別寒辺牛川と共に湖に注いでいる川。この辺で一番の長流で,中途で尾幌分水を厚岸湾西岸に入れている。永田地名解は「オ・ポロ・ペッ(川尻の・大なる・川)」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.257 より引用)

ふーむ。……まず、尾幌川の流れをきちんと把握しておかないと、この地名の解釈は難しいですね。山田さんも記されている通り、尾幌駅のあたりで厚岸湾に注いでいるのですが、これはあくまで「分水」であって、本流はここから海沿いに厚岸に向かっているのですね。

川は、普通海に向かって注ぐものですが、尾幌川は尾幌から海岸線に沿って東北東に流れています。こんな川は滅多に無いので、虚を突かれますね。

尾幌川の河口は、別寒辺牛川・チライカリベツ川と合流して、確かにとても大きなものになっています。なので o-poro-pet で「河口・大きい・川」ということなのでしょうね。尾幌駅のあたりの地形だけを見ていては、正解には辿り着けないような気がします。気をつけないと……。


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