2013年8月18日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (134) 「宇津内・宇曽丹・常盤」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)

宇津内(うつない)

ut-nay?
波立つ浅瀬・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
浜頓別町南部の地名で、同名の川もあります。今回も、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

ウッナイは「脇川、横川。もと“あばらぼね川”の義で、沼などから流れ出た細長い川が海まで行かずに、途中で他の川の横腹に肋骨がくっつくように横からそそいでいるようなものを云う(知里真志保『地名小辞典』)
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.187 より引用)
ふーむ。更科さんがこうやって長い目に引用するのは珍しいですね。もちろんこの解釈には異論は無いのですが、唯一「あれ?」と思うのが、この「宇津内川」はあまり「あばら川」っぽく見えないところでしょうか。

まだ続きがあります。

しかしウツナイも、曲がりくねった頓別川に山間部から曲流してそそいでいるので、むしろ波だつ浅瀬川のウツナイではないかと思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.187 より引用)
……。知里さんの説を肯定しているのか、あるいはそうではないのか、今ひとつ良くわからなくなってきました。ut-nay は「あばら骨・川」でしかないのですが、utka であれば「川の波立つ浅瀬」といった意味もあります(本来は「わき腹」という意味なのだとか)。

そうですねぇ。ここの「宇津内」は、単なる ut-nay と言うよりは、utka-nay のニュアンスで解釈すべきなのかも知れませんね。「わき腹・川」で、転じて「波立つ浅瀬・川」といった感じでしょうか。

宇曽丹(うそたん)

u-so-ta-an-nay?
互いに・滝・掘る・ある・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
浜頓別町南東部の萌え系地名です(ウソたん!)。この一帯では明治の頃に砂金の採掘が盛んだったらしく、現在は「ウソタンナイ砂金採掘公園」なる公園があるのだとか。

今回は、久しぶりに我らが「角川──」(略──)を見てみましょう。

 うそたん 宇曽丹 <浜頓別町>
〔近代〕昭和26年~現在の浜頓別町の行政字名。もとは頓別村の一部,宇曽丹。昭和8年に頓別村の通称字として見える。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.181 より引用)
ふむふむ。もちろん続きがあります。

ウソタンの地名については
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.181 より引用)
あれ? いつもの「地名は──」では無いですね。これはどうしたことでしょう。執筆者が違うのかな?

ウシ・タアンナイが原形とされ(アイヌ語地名の研究),ウシが「いつもそうである」,タは「掘る」,アンは古語で存在を意味し,ナイは川であるから,「いつも掘っている川」の意(地名アイヌ語小辞典)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.181 より引用)
うーん。これは……。出典が「アイヌ語地名の研究」「地名アイヌ語小辞典」とありますが、本当なのでしょうか。なーんか、かなり出鱈目な解釈のように思えるのです。そもそも、-us が最初にある、という時点で変じゃないでしょうか。「ウソタンナイ」という言葉を適当にぶった切って、知里さんの小辞典で適当な解釈を引っ張ってきたように思えてしまいます。

まだ続きがありました。

また一説ではウソタアンナイで,「お互いに滝が掘り合っている川」ともいう(浜頓別町周辺の字名)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.181 より引用)
おお、これだったら納得できます。u-so-ta-an-nay で「互いに・滝・掘る・ある・川」となりますね。あ、最初の「ウソ」以外はさっきの解と同じですね(汗)。

常盤(ときわ)

chip-ta-nutap
舟・掘る・川の湾曲内の土地
(典拠あり、類型あり)
浜頓別町中部、宇曽丹川が頓別川と合流するあたりの地名です。国鉄天北線にも同名の仮乗降場がありました。今回は無難に「アイヌ語地名解」から。

 宇曾丹川が頓別川にそそぐところの対岸。天北線の浜頓別川鉄橋付近の部落であり、これはもちろん新しい字名であるが、頓別川が大きく曲がって川と川の間にはさまった内陸のようになったところを、アイヌの人たちはチㇷ゚タヌタㇷ゚と呼んでいた。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.188 より引用)
ふむふむ。chip-ta-nutap ですか。意味は……まだ続きがありました。

チㇷ゚は丸木舟のことであり、タはほることである。ヌタップは、この地形のように川が大きく曲がった間に突き出た。(ママ)川と川にはさまれた土地をいう。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.188 より引用)
chip-ta-nutap で「舟・掘る・川の湾曲内の土地」ということになりますね。実際に地形図を見てみると、頓別川がすごい勢いでクネクネしていたことがわかります。河川改修の結果、昔のようなクネクネぶりは見られなくなってしまいましたが……。

さて。なぜこのクネクネが「舟を掘る」ことになるのかと言うと……。続きを見てみましょう。

昔はここは丸木舟にするやちだもかつらの真直ぐ伸びた木の多いところで、頓別川筋の人々は丸木舟をつくる時は、ここに来て舟をほり、祭をやって川に浮かべたところである。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.188 より引用)※ 強調部は原著の傍点部
なるほどー。これは実に説得力のある解釈ですね。これだけ歴史?の詰まった地名なのに、由来の良くわからない地名に変えてしまったのは惜しいことだなぁ、と思ってしまいます。

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