2013年9月7日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (139) 「珊内・増幌川・メグマ沼」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)

珊内(さんない)

宗谷岬のすぐ西隣にある集落の名前で、同名の川もあります。san-nay で「山から浜に出る・川」でしょうか。では、まずは更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょうか。

宗谷の内の字名の多くが日本流に書き改められているが、ここだけは昔のままの珊内を踏襲している。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.194 より引用)

あれ、これは気がつかなかったですね。ふむふむ、「富磯」も昔は「利矢古丹」と言ったのですか……。

続きを見てみましょうか。

永田方正氏は「下ル川」と訳しているが、これはどうも説明がたりない。猟などをして山から海岸におりて来る道である川というのであろう。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.194 より引用)

まぁ、確かに「説明がたりない」と言えばその通りなんですが、何が下りてくるのかを類推しろというのもなかなか酷な話です。

ちなみに、山田秀三さんは、次のように記しています。

サン・ナイ(san-nai 浜の方に出る・川)も各地にある川名だが,何か出るのだかよく分からない。上にコタンがあって,人間がその沢を浜に出る川との説も聞くがそうばかりとも思えない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.164 より引用)

ふむふむ。まだ続きがあります。

最近調べたところでは,雪融けとか大雨の時に,水がどっと出る川にサンナイの名のある処が多いようである。この珊内も上が手の平を開いたように拡がっているので,あるいは「水」が出る意味のサンナイだったかもしれない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.164 より引用)

確か、苫前あるいは羽幌の「三毛別」も水が出るという意味では無いか、という話でしたね。果たして宗谷の珊内はどうでしょうか。川ですからもちろん流域があるのですが、地形図で見た感じでは、それほど広いようにも見えません。雪解け水が一気に押し寄せる、という可能性も捨てきれませんが、もしかしたら別の意味があったのかも知れません。

増幌川(ますほろがわ)

稚内空港の東側、宗谷丘陵の麓のあたりを北流する川の名前です。ありそうで無い地名なので、少々首を傾げていたのですが……。まずは「北海道の地名」から。

永田地名解は「マㇱ・ポポ・イ。鷗の・躍る・処。潮入の川なり。婦女の踊をオポポと云ふ。ヘチリと云ふも同義」と書いた。土地のアイヌの伝承らしい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.163 より引用)

ふーむ。これは確かに聞いたことが無い地名です。海沿いの地名なので、確かに「カモメ」がいても不思議は無いのですが……。まだ続きがあります。

松浦氏廻浦日記はマシホホ,松浦図ではマシウホホとなっている。マㇱ・ウポポ(mash-uppo 鷗・唱舞)ともいったものらしい。鷗が鳴きながら群れ飛ぶ姿をウポポしていると呼んだのであろう。それが幌(ポロ)に訛ったものらしい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.163 より引用)

ということで、山田秀三さんは「カモメ・鳴きながら群れ飛ぶ」としているのですが、一方で更科源蔵さんは、次のように記しています。

鷗が踊るはおかしい、マシュ・ポロ・オイ(鷗の沢山いるところ)である。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.194 より引用)

見解が分かれましたね……。確かに、更科さんの説のほうが「地名っぽい」のは確かなのですが……(でも「ポロ・オイ」というのはあったっけ……)。ちなみに「マシュ」は「カモメ」という意味ですが、一般的には「カモメ」は kapiw と呼ばれていました。mas は宗谷方言?で、カモメの中でも「きたないカモメ」を指すのだとか。

ただ、知里さんの「──小辞典」を見てみると、mas は「カモメ」として記載があるものの、kapiw は記載がありません。ちょっと不思議な感じもしますね。

で、肝心の「増幌」の意味なのですが、ん~。難しいですね。松浦図の「マㇱ・ウポポ」が少々気になるのですが、元々は mas-poro-(o)-i だったのかなぁ、と思ったりします。「カモメ・多い・多くある・ところ」となるのですが、やっぱ「ポロ・オイ」が少々引っかかるような気も。

後日の課題ですね……。

メグマ沼

稚内空港の東にある沼の名前です。同名の川(メグマ川)もあります。近くの地名は「メクマ」(濁らない)らしいのですが、これまた不思議ですね……。

そんなにマイナーな地名だとも思わないのですが、残念なことに「北海道の地名」「アイヌ語地名解」には記載がありません。ただ幸いなことに「北海道蝦夷語地名解」に記載が見つかりました。

Me kuma  メー クマ  土地ノ高低 土地ノ高低隴畝ノ如シ、「メー」ハ凸凹、「クマ」ハ魚棚、魚棚ヲ並ベタルニ比ス
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.426 より引用)

め、めっ、メー……。これは……ちょっと聞いたことが無いですね。「クマ」についても同様です。「棚」だと「サン」ですかね。いずれにせよ、これはまるで「幽霊アイヌ語」のような……。気になって旧記も調べてみたのですが、松浦武四郎の「按西扈従」には「メクマル 砂浜」と記載されています。

永田地名解の訳がかなり意味不明なので、一から再検討した方が早いような気がしてきました。音からそれっぽい地名を考えてみるとですね……、例えば mak-oma なんかは考えられないでしょうか? 「マコマ」が「メクマ」に転訛した、という仮説です。

mak-oma だと「真駒内」と同じで「奥・に入る」といった意味になりますが、実際のメグマ川(メグマ沼から東流して増幌川に注いでいます)の流れから考えると、「後ろ・に入る」と解釈した方が良いかもしれません。稚内から宗谷の方を向いて考えると、メグマ川を遡るのは「後ろに戻る」ことに他なりませんからね。

あ、もともとは沼の名前の由来でしたね。すいません。メグマ川の水源とも言える沼なので「メグマ沼」なのだと思います(そのまんま)。

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