2013年10月20日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (152) 「沓形・泉町・神居」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)

沓形(くつがた)

kut-ka-an-nay?
崖・上・ある・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
利尻島の西の玄関口で、利尻町の中心地でもあります。見た感じではアイヌ語っぽく無い感じですが、さてさて……。

では、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

利尻町役場の所在地であり、戸数八百に近い利尻島最大の町を成し、本町、緑町、日出町、富士見町、泉町などの町名がある。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.209 より引用)
ふむふむ。続きを見てみましょうか。

沓形の古い呼び名はクツカンタであるが、これは岬の方をさした地名であるようだ。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.209 より引用)
うわぁお。これは想定外でした。

沓形のクツカンタはクッ・ウン・カタのつまったと思われ、クッは帯状に岩層のあらわれた岩棚のことである。ウンはある、カタは上のところで、
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.209 より引用)
ひょえー。ええっと、えとえと……。なるほど、kut-un-ka-ta で「帯状に岩のあらわれている崖・ある・上・にある」でしょうか。思わず動揺してしまいましたが、ちょっと想像を絶する解釈ですね。

幸いなことに、この「沓形」については山田秀三さんの「北海道の地名」にも記載がありました。

 利尻島西岸,利尻町内の地名。役場の所在地である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.157 より引用)
そうですね。では続きを。

松浦図ではクチカンタ,明治 30 年の道庁版 20 万分図や翌年の仮製 5 万分図ではクツカンナイであったが,意味が分からない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.157 より引用)
ふむふむ。「クツカンナイ」であれば、なんとなくアイヌ語っぽい感じがしてきますね。

後の方はクッ・カ・アン・ナイ(kut-ka-an-nai 崖・の上に・ある・川)のように聞こえる。あるいはクッチカンナイ「kutchi-kan(kar)-nai こくわの実・を採る・川」だったかもしれない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.157-158 より引用)
なるほど、これはありそうな感じがします。コクワの実については判断のしようが無いので、とりあえず kut-ka-an-nay で「崖・上・ある・川」としておこうかと思います。

泉町(いずみちょう)

mata-wakka
冬・水
(典拠あり、類型あり)
はい。「泉町」は、どこをどう見ても和名なんですが……、ところが!

ということで、引き続き更科さんの「アイヌ語地名解」から。

 現在は泉町となっているところで、地図の上ではよくわからないが、神社のわきに小沢があるようで、おそらくこの沢の水をよんだものと思われる。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.210 より引用)
ふむふむ。これだと「どこがアイヌ語なの?」という話になるのですが、実はこの泉町、昔は「亦稚」と書いて「またわっか」と読ませていたのだそうです。

察しの良い方なら、もうお解りのことでしょう。mata は「冬」、wakka は「水」ですから、mata-wakka は「冬・水」という意味になります。

おそらく冬に凍らない飲水のわいている沢ではなかったかと思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.210 より引用)
はい。多分そういうことでしょうね。今でもこのあたりの川は不凍なのか、ちょっと興味が湧いてきました。

神居(かむい)

kamuy-noka?
熊・形像
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
これまた、北海道ならあちこちにありそうな地名ですが……。あまりにありがちな名前なのでスキップしようとも思ったのですが、ちと興味深い内容だったので紹介してみます。今回も「アイヌ語地名解」から。

沓形の泉町から三キロほどの南の部落で、部落の人口に神威橋という橋のかかった小沢がある。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.210 より引用)
ふむふむ。では続きを。

もとは神威糠といったところで、アイヌ語のカムイ・ノカに当て字したもの。カムイは神または魔神で、ノカは形の意であるから神の形または魔神の形ということである。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.210 より引用)
へぇー。noka は「糠平」の「ヌカ」と由来が同じですね。「形像」などという言葉を使ったりするのですが、風化などによって形成された岩の中でも、偶然それが何かに似て見えるものを指していたようです。「カムイ」には、「神」だったり「悪魔」だったり、いろいろな「姿」があるのですが……

海岸の熊の型をした立岩に名付けられたものと思われる。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.210 より引用)
なるほどっ。熊も「カムイ」ですからね。和訳すると「熊岩」になっていたのでしょうが、ここは「カムイノカ」という音をそのまま漢字にしたので、現在は「神居」という地名になってしまったようです。kamuy-noka で「熊・形像」という意味となります。

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