2014年2月8日土曜日

次の投稿 › ‹  前の投稿

アイヌ語地名の傾向と対策 (174) 「マタルクシュケネブチ川・ワッカウエンナイ川・辺乙部川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである)

マタルクシュケネブチ川

塩狩峠のあたりに源を発し、剣淵川と合流して、士別で天塩川と合流する河川の名前です。……どマイナーですいません。和寒町にはアイヌ語の地名があまり残されていないもので。

どマイナーすぎていつもの参考書籍には記載が無いだろう……と思っていたらありました(汗)。山田秀三さんの「北海道の地名」からどうぞ。

 剣淵川上流の和寒川は和寒市街の南西の処で二股に分かれ,東股がマタルクシケネプチ(mata-ru-kush-kenepuchi 冬の・道が・通っている・剣淵川)で,西股がサクルクシケネプチ(夏の道が通っている剣淵川)である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.152 より引用)

はい。mata-ru-kus-kenepuchi で「冬・道・通る・剣淵川」と考えるのが自然ですね。kenepuchikene(-pet)-puchi で「ハンノキ(・川)・その河口」だと言われていますが、「マタルクシュケネブチ」の場合は固有名詞と捉えるべきなのでしょう。

ちなみに、山田さんのいう「サクルクシケネプチ」を地図で探したのですが、残念ながら見当たりませんでした。それっぽい場所には「剣淵川」があったので、現在は改称されてしまったのかも知れないですね。

 なお夏道と冬道が並んであった処では,現在の交通路は冬道の方の筋を選んでいる場合が多い。冬道,つまり積雪時の障害物が埋れていて最短距離を通っていたからなのであろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.152 より引用)

なるほどー。確かに宗谷本線も国道 40 号も「マタルクシュケネブチ川」沿いを走っています。mata-ru(冬・道)は迂回路ではなくて、冬場になると使うことができるベストルートだったのかもしれません。

ワッカウエンナイ川

和寒 IC の近くを西に流れて和寒駅の近くで剣淵川に合流する小河川の名前です。なんともありがちな名前ですいません。wakka-wen-nay で「水・悪い・川」という意味になりますね。

何らかの事情で飲用に堪えない水が流れていた、ということでしょうか。ぱっと思いつくのが上流に温泉があって硫黄分が含まれているとかですが、温泉がありそうな場所にも見えません。もしかしたらですが、原油が混じっているとかでしょうか……?

ウェンナイ(wen-nay)は道内各所にあるのですが、何がどう「悪い」のかは明確な伝承でも無い限りわからないのが一般的です。ところがここは頭に wakka がついているので、何が悪いのかが明確な珍しいケース……と思ったのですが、士別市にも同名の川がありました。ま、めちゃくちゃ珍しいわけでは無い、ということで。

辺乙部(ぺおっぺ)川

和寒町西部を流れる剣淵川の支流です。これぞアイヌ語地名!って感じがしますね。

今回も、まずは「北海道の地名」から。

 ペオッペはペ・オッ・ぺ「pe-ot-pe 水・多くある・もの(川)」と読まれるが,意味はよく分からない。水だらけの川とも読まれる。水量が多いというのか,小流がいっぱいあって水だらけという意なのかはっきりしない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.153 より引用)

ふむふむ。pe-ot-pe で「水・多くある・もの」ですか。うーん、これはちょっと珍しい地名のような……。セカンドオピニオンも見てみましょうか。

 辺乙部川といわれている川の元の名はペンケ(かみての)ペオッ(水がにじみでる)ペ(川)という意味と思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.160 より引用)

ふーむ。地形図を見た限りでは、辺乙部川とパンケペオッペ川、ペンケペオッペ川はそれぞれ別の川なのですが、それはまぁ措いておきましょうか。更科さんの解も、大枠では山田さんの解と同じなのですが、ot を「にじみ出る」としたところが目に留まりますね。

ot を「にじみ出る」と解釈するのは知里さん流とも言えそうで、「地名アイヌ語小辞典」にも同様の記載がありました。

それにしても、今回は川の名前ばかりになってしまったのですが、それもその筈で……

 和寒町の地名は昭和九年の字名改正でほとんど昔の原形がないまでに改められた。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.160 より引用)

ああ、やはり。「北海道の地名は殆どがアイヌ語由来」と語る人がいますが、実際は決してそんなことは無くてですね。和寒町のように古い地名をばっさりと切り捨てたところも少なくないのです。なんとも残念です。

前の記事次の記事

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International

0 件のコメント:

最近の記事

    スポンサーリンク