2014年7月10日木曜日

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第42回「蛇紋岩の恐怖」

 


北海道で二番目に長いトンネルの物語

さて、「北海道で二番目に長いトンネル」である「穂別トンネル」ですが……

(Wikimedia Commons より借用。この作品の著作権者である GOXZ7 氏は、この作品を以下のライセンスで提供しています。: クリエイティブ・コモンズ表示 - 継承 1.0ライセンス)

その掘削は、かなり困難を極めたのだそうです。まずは例によって例の如く、Wikipedia の記事を見てみましょう。

むかわ穂別ICと占冠ICの間を東西に貫いている。
(Wikipedia 日本語版「穂別トンネル」より引用)

これはいいですよね。続きです。

掘削には日本最大規模の分布を誇り、非常に脆弱な蛇紋岩(神居古潭変成帯)を貫くこととなっており、難工事が予想された。
(Wikipedia 日本語版「穂別トンネル」より引用)

ふむふむ。おっ、これはちょっと記憶にあるキーワードが出てきました。

神居古潭変成帯

時は明治 29 年(1896 年)に遡ります。琵琶湖の水を京都市内に引き込む「琵琶湖疎水」の建設で一躍その名を世に知らしめた若き土木技師・田辺朔郎は、岳父・北垣国道に唆され……じゃなくて、えーと、請われて、北海道官設鉄道の旭川延伸に向けての調査を行っていたのでした。

当時、鉄道は滝川近郊の「空知太」が終点で、この先は滝川・深川を経由して旭川に延伸することになるのですが、深川と旭川の間には交通の難所として名高い「神居古潭」があり、ルート選定やその後の工事はこれまたかなりの困難を極めたと言われます。

北海道の鉄道敷設における田辺朔郎の足跡は、田村喜子「北海道浪漫鉄道」に詳しいのですが、この中に次のような一節がありました。

道内の地質調査を行ったアメリカ人お雇い技師ベンジャミン・スミス・ライマンは、神居古潭の地層は地球の収縮をみることのできる一億年内外を経過した輝緑片岩だと調査報告書で述べ、とくに「神居古潭石層」と名づけている。日本でも最大規模の蛇紋岩地帯である。
(田村喜子「北海道浪漫鉄道」新潮社 p.29 より引用)

はい。道東道の「穂別トンネル」が貫こうとした地層と同質のものですね。そして、この「蛇紋岩」の性質についてですが……

蛇紋岩は空気に触れたり、水を含むと、膨張する性質がある。
(田村喜子「北海道浪漫鉄道」新潮社 p.29 より引用)

という、実に厄介な岩だったのでした。

蛇紋岩の恐怖

蛇紋岩がトンネル工事に際してどのように厄介な代物だったか、引き続き「北海道浪漫鉄道」から見てみましょう。

 朔郎は腰に手をあてて、坑内の岩肌に目を走らせた。見た感じで、トンネルの内径が明らかに小さくなっていた。
 バリッと木が割れる音がした。むこうの方でもバリッと音がする。音は支保工からしていた。支保工には赤松の丸太が最適だが、北海道には赤松がないので、えぞ松やとど松を使っている。その頑丈な丸太がバリッと音をたてて、縦に割れているのだ。バリッ、バリッとトンネルのあちこちで割れているのだ。
 ザザーッと岩肌が落ちて、足もとに岩片や小石がとび散った。北海道特有の蛇紋岩は、空気に触れると、空気中の酸素と水分を吸収して、岩(がん)が非常な勢いで膨張し、肌落ちする性質を持っている。いま朔郎の目の前で、蛇紋岩はその性質を顕著に見せつける。
(田村喜子「北海道浪漫鉄道」新潮社 p.102-103 より引用)

というわけで、トンネル掘りにとっては地獄のような性質を持つ岩だったのでした。実際に田辺朔郎の設計で完成した神居古潭のトンネル群は、この蛇紋岩の特質も災いしてか、複線化工事の際に放棄され、今は自転車道として余生を過ごしています。

蛇紋岩の恐怖ふたたび

さて。穂別トンネルの話題に戻りましょうか。

2006年3月から掘削を開始。毎月40~100mのペースで進んでいたが、2008年には蛇紋岩特有の膨張や崩落により、掘削するペースが20m程度に落ち、ついには1mも進まない月も出た。
(Wikipedia 日本語版「穂別トンネル」より引用)

明治期のトンネル掘削では非常に厄介な代物であった蛇紋岩ですが、現代の掘削技術を以てしても、これだけの難工事を強いるものだったのですね。

2009年には日本の高速道路史上初の「高耐力二重支保工(高強度の材料を使用し支保工を二重に設置する工法)」などを採用したが、400mもの土被りや切羽の崩落対策に対する修復を求められ、残り1,000mで作業が停滞し、工事関係者を悩ませた。
(Wikipedia 日本語版「穂別トンネル」より引用)

「残り 1,000 m」と言うとラストスパートのようにも感じられますが、全体の 23% にあたる長さですから、一気呵成に片付けられるものではありませんね。

それでも同年の夏には10分で効果が得られる瞬結性のコンクリートを使用して蛇紋岩と地圧を押さえ、さらに重機を2倍に増やすことで掘削のペースを40mに戻した。
(Wikipedia 日本語版「穂別トンネル」より引用)

ひゃあ~。道路工事などで用いられる速乾性のセメントがあることは知っていましたが、僅か 10 分で効果が得られる(固まる、ってことですよね)コンクリートなんてものもあるんですね……。まるで瞬間接着剤の世界ですね。

断面は楕円形に

この、何とも恐ろしい蛇紋岩の性質を最新技術で克服した穂別トンネルですが、トンネル自体の形にも工夫が施されていたのでした。

掘削断面は最大で131m²にも及ぶ。これは底面に1.5mのインバートを設けた(トンネル底面を円形にした)ため、暫定2車線のトンネルでは非常に大きい断面になっている。
(Wikipedia 日本語版「穂別トンネル」より引用)

一般的に、道路トンネルの断面は底が平らな半円形になっているのですが(道路を通すので当然ですね)、穂別トンネルは半円形ではなく楕円形になっていて、わざわざ底を埋め戻して道路にしているのだそうです。わざわざ楕円形にすることで、上部や側部からの圧力(蛇紋岩の膨張を想定したものでしょう)をトンネルの外壁全体で支えるためなのだとか。

うーん、こうやって詳細を知ってしまうと、凄い技術力と現場の苦労でできたトンネルなんだなぁ~と感心すると同時に、次にこのトンネルを通るときに妙に不安になってしまいますね……(汗)。


さぁ、トンネルを抜けたら占冠村です!

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