2014年8月30日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (207) 「チライオツナイ川・伊忽保川・アネップ川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

チライオツナイ川

音更町のやや東寄りを流れる士幌川の支流です。おそらく chiray-ot-nay で「イトウ・多く居る・川」でしょう。

えーと……(汗)。月形町に「知来乙」という地名があるのですが、それと同じ名前ということになりますね。

ということで「知来乙」の項の焼き直しなのですが、知里さんの「──小辞典」には chiray-ot-nay の読みとして「チらヨッナィ」とカナが振られています。アイヌ語はフランス語と同じようにリエゾンするというのが一般的な見解なのですが、「知来乙」も「チライオツナイ川」も y-o を「ヨ」とリエゾンするのでは無く、それぞれ独立した母音として「イオ」と発声していたようですね。

「知来乙」は石狩ですし、「チライオツナイ川」は十勝ですが、どちらも chiraychirai と発音する癖?があったのかも知れません。

伊忽保川(いこっぽ──)

音更町の北東部を流れる士幌川の支流です。アイヌ語起源っぽい音ですが、肝心の意味がどうにも良くわかりません。というわけで、まずは更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

 伊忽保川(いこっぽがわ)
 十勝川の右支流。意味不明。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.225 より引用)

……。相変わらず飛ばしてますね。ロックの塊です(意味不明)。

ただ幸いなことに、「士幌町」の章の中に次のような記述を見つけました。

 イシヨッポ
 士幌町の字名。士幌川と音更川にはさまれた地帯、五万分の地図には伊忽保(いこっぽ)とあり、士幌川の支流の名である。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.225 より引用)

どうやら「伊忽保」が「イシヨッポ」になっているようなのですね。残念ながら現在の地形図ではその存在を確認できないのですが、とりあえず続きを見てみましょうか。

永田氏は「ポンイコッポ?」と疑問地名としている。もしイショッポがイセポ、イソポであれば兎とも解される。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.225 より引用)

なるほど。もともと「イセポ」だったのが「イショポ」となり、やがて「イコッポ」となったのではないか、という説ですね。確かに、明治以降に和人の入植が広まるにつれて、アイヌ語由来の地名が読み間違い・書き間違いから変化していったのはあちこちで目にするのですが、この「イコッポ」という音については「東西蝦夷山川地理取調図」んも「ホンイコツホ」「ホロイコツホ」とあり、かなり古い時代から存在していたことを窺わせます。

また「うさぎ」を意味するアイヌ語の単語は、ほぼ道内全域において「イセポ」で通用していたようで、地域ごとの違いは殆ど見られないようでした。もちろんこれで「イコッポ」が「イセポ」の転訛であることが否定できるわけでは無いのですが、状況証拠としてはやや苦しくなったのも事実です。

山田秀三さんも「伊忽保川」には首を傾げていたようで、「北海道の川の名」には次のようにあります。

 参考のために「永田地名解」の中から、若干似た名前を挙げると、ユコペ(鹿多き処)〔白老郡〕がある。正確に書けば、ユコッペ(Yuk-ot-pe)であったろう。またユコッナイ(Yuk-ot-nai 鹿川)〔勇払郡〕のような類形名もある。あるいはこのユコッペの転か(ママ)?
(山田秀三「北海道の川の名」草風館『アイヌ語地名の研究 2』に所収)

ふむふむ。まだ続きがあります。

少しくだいて I-uk-ot-pe 「それを・捕る・(何時も……する)・処」とも読めないでもない(以上はどれも試案に過ぎない)。
(山田秀三「北海道の川の名」草風館『アイヌ語地名の研究 2』に所収)

どれもありそうな感じですが、逆に言えばどれも決定だとはなり得ない感じですね。試案というものは他にも出てくるもので、たとえば ukot-pet で「合流する・川」とも読めなくもありません。

「兎のいる川」とも読まれた由(北海道アイヌ語地名研究会)。どう読まれたか、あるいはイソポ(兎)の転とでも見られたものだろうか。
(山田秀三「北海道の川の名」草風館『アイヌ語地名の研究 2』に所収)

うーん、山田さんも「イセポ」説を捨てきれないのですね。確かに「伊忽保」が「伊惣保」の誤字だとしたら「イソポ」説も可能性が出て来るのですが、カタカナで「イコッポ」と書かれている以上その仮説は棄却されるわけで……。良くわからないですね。

アネップ川

音更町の東部を流れる、長流枝内川(士幌川水系)の支流です。地形図で見てみると、台地の中を深くえぐっている川のように見えますが、果たしてどんな意味なのでしょうか。

今回は、久しぶりに「角川──」(略──)を見てみましょう。

 あねっぷ アネップ <音更町>
〔近代〕大正14年~昭和55年の行政字名。はじめ音更(おとふけ)村,昭和28年からは音更町の行政字。もとは音更村大字蝶多村の一部。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.85 より引用)

ふむふむ。もともとは「アネップ」という地名があったのですね(昭和55年に廃されたということでしょうか)。

地名は,
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.85 より引用)

キター!(・∀・)

アイヌ語で「細い川」の意。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.85 より引用)

ふむふむなるほど。ane-pet あるいは ane-p だったようですね。意味は「細い・川」あるいは「細い・もの(川)」。どちらの解釈でも意味はほぼ違いありません。

昭和54年一部が字東和,同55年残部が字長流枝(おさるし)となる。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.85 より引用)

そういうことでしたか。「アネップ」という地名は分割された上で統廃合されてしまったのですね。

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