2014年10月19日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (222) 「計呂地・志撫子・芭露」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

計呂地(けろち)

kere-ot-i
削らせる・のが常である・ところ

(典拠あり、類型あり)
湧別町東部の地名で、国鉄湧網線に同名の駅がありました(現在は交通公園として整備されています)。また、同名の川もあります。

では、今回は「北海道駅名の起源」を見てみましょう。

  計呂地(けろち)
所在地 (北見国)紋別郡湧別町
開 駅 昭和10年10月20日 (客)
起 源 従来アイヌ語の「ケロチ」(サケ皮のくつを忘れた所)から出たと解されていたが、地形からみて「ケレ・オチ」(非常に削られた所)の意であると思われる。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.203 より引用)
「サケ皮のくつを忘れた所」って……。こういった楽しい解は永田方正が残したものが多いのですが、今回も例によって例の如くでした。ker-ot-i で「鮭皮の靴・多くある・ところ」となるので、そこから「靴を置き忘れた(ので沢山ある)」という珍妙な解釈が生まれた、といったところでしょうか。

ちなみに、この珍妙な地名解について、更科源蔵さんは次のように記しています。

ケロチは鮭皮の靴を忘れた処などと解す人もあるが、そうしたことは地名にはならない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.294 より引用)
さすがです。バッサリと一刀両断ですね。

そんなわけで、もう一つの解である kere-ot-i で「削らせる・のが常である・ところ」と考えるのが自然なのかなぁ、となりそうです。計呂地川の河口部は湿原のようになっていて、砂嘴のようなものが形成されているので、そのあたりを形容したもの……かもしれませんね。

志撫子(しぶし)

supun-us-nay
ウグイ・多くいる・川

(典拠あり、類型多数)
計呂地の北隣に位置する地名で、同名の川も流れています。かつては国鉄湧網線の仮乗降場もあったのですが、仮乗降場だったため「駅名の起源」には残念ながら記載がありません。

松浦武四郎の「東西蝦夷山川地理取調図」にも「シフシ」とあるのですが、明治期の地図には「シプシュナイ」とあります。時代の新しい地図のほうが古そうな形を残しているのは不思議な感じがしますね。

supun-us-nay であれば「ウグイ・多くいる・川」となりますね。「シュプヌㇱ」が「しぶし」になったのではないか……という考え方です。

順番が逆になりましたが、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょうか。

 士武士川(しぶしがわ)
 湧別町の計呂地川と並んでサロマ湖にそそぐ川の名。現在は志撫子(しぶし)の字を当てる。シュプン・ウㇱでうぐいの多い川と思われるが明らかでない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.294 より引用)
ふーむ、元々は「士武士」という字を当てていたのですね。更科さんは佐呂間別川の支流の「武士川」との音の近似性も気にしていたようですが、

これも明らかではない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.294 より引用)
やや投げやり気味な終わり方でした(汗)。

芭露(ばろう)

par-o?
河口・そこにある

(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
湧別町のサロマ湖に面した美しい地名・川名。同名の駅もありました。ということで、「北海道駅名の起源」から。

  芭 露(ばろう)
所在地 (北見国)紋別郡湧別町
開 駅 昭和10年11月20日
起 源 アイヌ語の「パロ」(川口)から出たものである。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.203 より引用)
ふーむ。確かに par は「河口」という意味ですが、なんか地名としては不思議な感じがしますね。

この、もやもやとした違和感は更科さんも抱いていたようで、「アイヌ語地名解」には次のように記しています。

 芭露(ばろう)
 湧別町内の湧網線駅名。ここを流れてサロマ湖に入る川をパロー川といい、奥の支流にシヤクシパローなどというのがある。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.294 より引用)
とりあえず、ここまではいいですよね。

パロは川口の意であるが、川の名であるということが、どうも理解できない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.294 より引用)
はい、ごもっともです(汗)。

山田秀三さんの考えも拝見しておきましょう。

 芭露はパロ(par 口。paro ならその口)の意か。芭露川の口がこの辺での大きい川口だったのでこの名で呼ばれ,それが川の名にも使われたのではなかろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.189 より引用)
確かに芭露川は、サロマ湖に注ぐ河川としては佐呂間別川に次ぐ流域面積があるので、「この辺での大きい川口」という解釈も「然もありなん」と思わせます。そして、par ではなく所属形の paro (「その河口」)だったのかも知れませんね。

「所属形」という考え方を踏まえて日本語にするのはなかなか困難だなぁ……と常々思っていたのですが、英語の The を被せた形と考えてしまえば、実はしっくり来るのかも知れません。今回の場合だと「河口」ではなく「ザ・河口」となります。ニュアンスの違いを実感いただけましたでしょうか……?(汗)

2020/8/14 追記
「芭露」も所属形というのが若干解せない感じがするので、あるいは par-o で「河口・そこにある(・何か?)」なのかも知れないなぁ、と思い始めています。また par は「河口」ではなく、単に「口」(あるいは「入口」)かもしれません。

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