2014年11月15日土曜日

次の投稿 › ‹  前の投稿

アイヌ語地名の傾向と対策 (229) 「チャシポコマナイ川・木禽川・サラカオーマキキン川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

チャシポコマナイ川

北見市東部、旧・端野町川向のあたりを北流して常呂川に注ぐ支流の名前です。昔からの川名がそのまま残っているような感じですね。意味を解いてみる前に古い地図をチェックしておきましょうか。

東西蝦夷山川地理取調図を見ると、チャシポコマナイ川と思われる位置に「シャンホコマナイ」と記されています。一方、明治期の地形図には「チャシポコマナイ」と、現在と同一の名前で記録されています。どっちが原型に近いかはちょっと判断できかねます。というのも、明治期から現在に伝わる「チャシポコマナイ」のほうが、アイヌ語の地名としては意味が通りやすいからです(この地名については旧い記録の方が疑わしく見えます)。

「チャシポコマナイ」という音から素直に判断すると、chasi-pok-oma-nay で「砦・しも・そこにある・川」と考えることができます。この川は中流部に崖が川に迫っている場所があり(地図では「コ」の字の上あたり)、確かに砦としての立地は良さそうなところです。

なお、該当の箇所にチャシ(砦)が存在しないのであれば、chis-pok-oma-nay で「立岩・しも・そこにある・川」と考えることもできるかもしれません。

木禽川(ききん──)

美幌町北西部を流れる網走川の支流の名前です。ちなみに川沿いの集落は「豊岡」というのですが、これは「千歳」などと同じく瑞祥地名なんでしょうね。「キキン」という音は「飢饉」に通じるから改名しよう……と考えたとしても不思議はありません。

さて、この木檎川ですが、明治期の地形図でも「キキン」と記されていました。本来は pet なり nay なりが後ろについていそうな感じがするのですが、かなり古くから下略されていたことを思わせます。

永田方正の「北海道蝦夷語地名解」にも「キキン」と記されていて、その意味は「キキン樹多キ處」とされていました。補足説明として次のように記されています。

キキン」樹ノ名、方言、「ナナカマド」ト云フ、黒キ實アリ「アイヌ」取リテ食フ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.481 より引用)

一方で、更科源蔵さんは次のように記しています。

 木禽川(ききんがわ)
 アイヌ語はキキンニ・ウシ・ナイでえぞのうわみずざくらの多い川の音の当字。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.288-289 より引用)※ 強調は原著者による

ん……? kikin あるいは kikin-ni の解釈がきれいに分かれています。まず大前提として、「ナナカマド」と「エゾノウワミズザクラ」は全くの別種です。そして萱野さんの辞書には kikin-ni は「エゾノウワミズザクラ」と書かれているので、永田方正が「ナナカマド」としたのは誤訳か? と思ったのですが……

実は、kikin-ni という単語は「エゾノウワミズザクラ」を指す場合と「ナナカマド」を指す場合があるのだそうです。ただ知里真志保さんの記したところでは、普通に kikin-ni と言った場合は「エゾノウワミズザクラ」を指すケースが多かったため、「ナナカマド」を明示したい場合は iwa-kikin-ni と呼ぶこともあったようです。

しかしながら、iwa をつけない kikin-ni で「ナナカマド」を指し示す用例が知里さん自身によって美幌でのみ採集されているため、永田方正の解釈は間違っていなかったと考えて良いのかもしれません(ややこしい)。

ちょっと長くなりすぎたので、ここで一旦まとめておきましょう。「木檎川」の「キキン」はおそらく「ナナカマド」という意味で、もともとの川名は kikin-ni-us-nay だったのではないか(更科説)といったところです。

サラカオーマキキン川

大空町(旧・女満別町)西部を流れる川の名前で、現在は直接網走湖に注いでいます。従って、前述の木檎川の近くを流れているものの、直接の関係はありません。

では、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

 サラカオーマキキン川
 女満別町内西端部の川名。現在は網走湖に注いでいるが,昔は下流が東に流れて網走川(旧河道)に入っていた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.210 より引用)

あ、やっぱり。この川が直接網走湖に注ぐようになったのは河川改修の結果だったようですね。昔は網走川の支流だったようです。

網走市史地名解は「サル・カ・オマ・キキン(芦原・の上を・入って行く・キキン川)と訳した。すぐ上流側にあるキキン川の弟分のような川なのでこの名がついたのであろう。サルカはむしろ「芦原の平面」ぐらいの意で,ただサルというのと殆ど同義だったように思われる。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.210 より引用)

ふむふむ。「キキン川の弟分のような川」とありますが、これは「キキン川と同等の特徴を有していた川」と言い換えてもいいのかな、と思います。即ち、この川の流域にも「ナナカマド」が群生していたのではないかな、ということです。

ということで、sar-ka-oma-kikin で「葦原・かみ・そこにある・キキン川」となりそうです。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

前の記事次の記事

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International

0 件のコメント:

最近の記事