2015年6月14日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (258) 「然内川・矢臼別・フッポウシ川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

然内川(しかるんない──)

別海町別海と中西別の間で西別川に合流する支流の名前です。最初はてっきり「しかりない」だと思ったのですが、実は「しかるんない」と読むのだとか。

松浦武四郎の「東蝦夷日誌」には「シカルンナイ」との表記が見られるため、古くからこの音だったことを思わせますが、一方で永田地名解には

Shikar'un nai etok  シカルン ナイ エト゚ㇰ  回流川ノ水源
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.350 より引用)

とある横に

Shikara pet  シカラ ペッ  回流川
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.350 より引用)

とあったりして、びみょうに表記が揺れていたことを思わせます。

では、ここで山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

シカルンナイ川
 西別市街(西別川中流,標津線西別駅あり。近年は別海という)から約 8 キロ上流で西別川に入る南大支流の名。少し珍しい川名である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.236 より引用)

「標津線西別駅」は、後に「別海駅」に改称された駅のことですね。「少し珍しい川名」と言うのは、sikari-nay ではなく sikari-un-nay で、間に un が入ることを「珍しい」としているようです。

シカリ・ウン・ナイ「shikari-un-nai(川あるいは川水が)回る処・がある・川」とでも読むべきか。(シカリはふつうは回るという動詞だが,ここでは名詞で「回る処←シカリ・イ」とでも解すべきか)。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.236 より引用)

改めて知里さんの「地名アイヌ語小辞典」を見てみると、こうなることを見越していたかのように si-karisikari が並んでいます。前者が「回る」「迂回する」「回流する」という動詞で、後者は「川の中で水の回流するところ」だとしています。こちらは sikari-i を語源に取る、というところまでぴったりですね(笑)。

ということで、この「然内川」は sikari-un-nay で「水の回流するところ・ある・川」でいいんじゃないかな、と思います。

矢臼別(やうすべつ)

矢臼別には、陸上自衛隊の「矢臼別演習場」があります。矢臼別演習場は厚岸町・浜中町・別海町の三町にまたがる大きなもので、自衛隊では最大規模の演習場なのだそうです。

「矢臼別」というくらいですから、本来は川の名前だったと考えられるのですが、「ヤウシュベツ川」は演習場から少し東に離れた別海町内を流れています。ちなみに、演習場内には風蓮川やトライベツ川、フッポウシ川などが流れています。

では、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

矢臼別 やうすべつ
 別海町内。風蓮湖北西隅の川名, 地名。 永田地名解は「オンネ・ヤ・ウン・ペッ onne-ya-ush-pet。網曳の大川」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.238 より引用)

ふむふむ。確かに「東西蝦夷山川地理取調図」にも「ヲン子ヤウシ」という川が描かれています。風連湖に注ぎ込む川として描かれていますが、長さが不当に短いのはご愛嬌でしょうか。

現在ヤウシュペツというのは,永田地名解が子音シをシュと書いた変なくせが残ったためである。アイヌ語ではウシもウスも同音。地名にはヤウスペッの方で残った。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.238 より引用)

あ、やはりそういうことなのですね。子音の「ㇱ」を「シュ」と綴るのは永田地名解の有名な悪癖なのですが、ここにもその影響が残されていたのでした。

セカンドオピニオンということで、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」も見ておきましょう。

 矢臼別(やうしべつ)
 奥行臼と西別の中間の川の流域の部落。アイヌ語のヤ・ウㇱ・ペッは網の多い川の意。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.276 より引用)

あんらら。読みに異同がありますが、更科さんは聞き取りベースで記録したのでしょうか。永田方正が「ㇱ」を「シュ」に書き換えた後にも関わらず、原形?に近い形で記録されているのは面白いですね。

「矢臼別」の意味ですが、やはり ya-us-pet で「網・ある・川」と解すべきかと思います。一般人がみだりに立ち入ることができない演習場の名前としては、実にぴったりの地名のようにも思えてきますね(笑)。

フッポウシ川

厚岸町を流れる別寒辺牛川の支流のひとつで、上流部は演習場の中を流れています。「東西蝦夷山川地理取調図」には「フホウシ」という名前で記録されています。

では、今回は永田地名解を見てみましょう。

Hup-po ushi  フㇷ゚ポ ウシ  小椴松多キ處
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.359 より引用)

あーなるほど。hup-us-i で「椴松・多い・ところ」かと思ったのですが、hup に指小辞の -po をつけて hup-po-us-i と解したのですね。これだと確かに「小さな椴松・多い・ところ」となりそうです。

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