2015年8月23日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (276) 「美羅尾山・鐺別・奥春別」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

美羅尾山(びらお──)

弟子屈町中心部にある山で、アンテナなどが立ち並ぶため良く目立っています。かつてはスキー場もありましたが、現在は営業していないとのこと。

この「美羅尾山」ですが、「戊午日誌」には次のように記されていました。

また山の上しばし小笹原を行に槲柏原、是山ヒラヲロノホリと云。其下また
     ヒラヲロ
西岸小山の下赤兀崩平也。此辺川屈曲して甚し。また川東岸は平地木立山にして、処々谷地多し。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.436 より引用)

また、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」にも記載がありました。

 美羅尾山(びらおざん)
 弟子屈温泉の西にある山。もともとはこの山の裾が釧路川にせり出して、崖になったところについた地名で、ピラ・オロは崖のところという意。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.255 より引用)

あーなるほど。意外と素直な解釈で良かったのですね。pira-oro で「崖・の所」と解釈して良さそうです。

鐺別(とうべつ)

釧路川の支流で、弟子屈町の真ん中を西から東に流れて、摩周駅の少し南側で釧路川と合流します。to-pet であれば「沼・川」なのですが、鐺別川のまわりにはそれっぽい池沼は見当たりません。

まずは「戊午日誌」を見てみましょうか。

また少し上り西岸
     ト ベ ツ
是西岸に有れども、当大川すじ第八番の支流なるが故に、其川口を見るに川巾凡十七八間。川口には両岸より赤楊・柳多く繁茂してせまく見えたり。トベツ訳してトウベツと云へどもさして上に沼もあらざるよしなれども、其儀また不解なり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.431 より引用)

ということで、松浦武四郎も「沼があるようにも見えないけど、おかしいね」と思っていたみたいです。

では、続いて地元弟子屈出身の更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

 鐺別(とうべつ)
 当別とも書き、弟子屈町の字名であるが、釧路川の支流当別川からでた地名で、この川は雨がふると直ちに水かさが倍になるので、ト゚・ペッは倍になる川の意で、他にある当別のように沼川、もしくは竹川ではないという。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.255 より引用)

うひょー。読点ばかり続く……のはさておき、これは今まで無かったパターンですね。tu-pet は「ふたつの・川」で、意味するところは「倍・川」では無いか、と言うのですね。

「道東地方のアイヌ語地名」を著した鎌田正信さんは、「鐺別川」が「トペックシ」から来ているとして tu-pet-kus-i で「二つの・川が・通る・所」と解釈していました。ただ、戊午日誌には「ト ベ ツ」と「トヘツクシ」で別々に記載されていたこともあるので、「鐺別」が「トヘツクシ」から来ている、という考え方は、やっぱり逆なんじゃないかなぁ……と思ったりもします。

奥春別(おくしゅんべつ)

美羅尾山の西側の地名で、鐺別川に注ぐ同名の川も流れています。今回もまずは「戊午日誌」から。

またしばし過て右の方にヲクイシユンベ、小川、其訳はしらず。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.431 より引用)

松浦さんがちょっと投げやり気味なのが気になりますが、続いて元祖投げやり気味な更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」から。

 奥春別(おくしゅんべつ)
 弟子屈町当別川奥の部落。ここを流れる奥春別川の名によったもので、オ・クシ・ウン・ぺ(山の向こうにある川)であるという。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.255 より引用)

ほうほう。o-kus-un-pet なのは良いとして、「山の向こうにある川」という解がちょっと理解に苦しみます。ちなみに o-kus-un-pet は斜里の「奥蕊別川」と全くの同名なのですが、知里さんの「斜里郡内アイヌ語地名解」によると、斜里の「奥蕊別川」は「川向うにある川」とされています。

逐語訳に近い形で解釈してみると「河口が・川または山の向こうに・ある・川」と言った感じでしょうか。kus は、奥春別川の場合は「山の向こう」と解釈するのがいいのかな、と思います(弟子屈町における「美羅尾山」の存在感は結構なものがありますので)。

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