2015年11月15日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (298) 「メトセップ川・ペンケウェナイ川・サックシュオルベツ川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

メトセップ川

糠平湖の最北部に注ぐ川の名前です。河口部に「メトセップ橋」という名前の橋がかかっていますね。糠平湖(あるいは音更川)に注ぐ川の名前は、軒並み「一の沢」「二の沢川」「四の沢川」「五の沢川」「七の沢川」「九の沢」と言った名前になってしまっているのですが、メトセップ川は数少ない例外のひとつです(あとはアーチ橋で有名な「タウシュベツ川」とか)。

この「メトセップ」ですが、「北海道地名誌」には次のように記載されていました。

 メトセップ ウペペサンケ山の山裾から流れて糠平湖の上流に入る小流。アイヌ語「メトッ・セㇷ゚」は山奥広くあるの意であるが。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.600 より引用)

ふむふむ。metot-sep と読んだわけですね。metot は、知里さんの小辞典には「山奥;深山幽谷」とあります。sep は「広くある」あるいは「広くなる」とのことですが、流域が広いわけでも無く、下流に扇状地があるわけでも無く、ちょっと良く分からないですね。

鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」には、次のように記されていました。

メトッ・セㇷ゚・イ「metat-sep-i 山奥の・広い・所(川)」の意である。下流付近の河岸段丘は広い平坦地であった。それをさしているのであろうか。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.140 から引用)※ 原文ママ

基本的に「北海道地名誌」の解を踏襲しているのですが、どこから -i が出てきたのかが良くわかりませんね。この地形なら metot-sep-nay であっても不思議はないと思うのですが……。ただ、河口部の河岸段丘の広さは確かに特徴的なので、それを sep と表現したということでしょうか。

「メトッセㇷ゚」の謎

明治期の地形図を見てみると「メトッセㇷ゚」と記されているので、やはり元は metot-sep で「メトッセㇷ゚」だったのが、どこかのタイミングで「メトセップ」に取り違えられたと考えられそうですね。

ただ、改めて地形図を見てみると、文字だけではなくて河川そのものも取り違えられたようにも見えます。良く見ると、「メトッセㇷ゚」の文字が現在の「幌加川」(「幌加音更川」)のところに書いてあるのですね。幌加川の北支流が「シーオトプケ」と記されていて、幌加川ではなくて音更川に直接注ぐように描かれています(これは明らかな間違い)。

そして音更川の本流のところに「ホロカオトプケ」と記されているので、端的に言えばこの地形図は「間違いだらけ」ということになるのですが、「メトッセㇷ゚」が現在の幌加川のことだと仮定すれば、幌加ダムの上流部に少し開けたところがあるので、metot-sep と呼ぶに相応しいような感じもするのですね。

「明治期の地形図」は http://www3.library.pref.hokkaido.jp/digitallibrary/dsearch/da/detail.php?libno=11&data_id=5-2187-0 からどうぞ。

ということで、「メトセップ川」の地名解ですが、やはり metot-sep で「山奥・広くある」と考えていいのかな、と思います。

ペンケウェナイ川

糠平湖の中心から少し南寄りのところで、東から湖に注ぐ川の名前です。糠平湖に注ぐ川の名前は軒並み「一ノ沢」「二の沢川」「四の沢川」「g(ry

音から判断すると penke-wen-nay で「川上・悪い・沢」と考えられそうです。あまりにありきたりで取り上げるまでも無いような名前のように思えてしまうのですが……。

ただ、明治期の地図を見ていると、ペンケウェナイ川のところに「ペンケユウンナイ」と書いてあります。「ユウンナイ」は アイヌ語地名の傾向と対策 (296) 「ペテトク沢・由仁石狩川・ユウンナイ川」でも記した通り、yu-un-nay で「温泉・ある・沢」だと考えられます。また、ペンケウェナイ川からそれほど遠くないところに「ぬかびら源泉郷」がありますから、この辺りで温泉が湧出するのも割と自然に思えます。

つまり、「ペンケユウンナイ」が「ペンケウエンナイ」に取り違えられ、やがて「ペンケウェナイ」になっちゃった可能性があるのではないかと……。penke-yu-un-nay であれば「川上・温泉・ある・沢」となりそうですね。

サックシュオルベツ川

上士幌町清水谷のあたりに源を発し、国道 273 号線の東側をほぼ並行する形で南に流れる川の名前です。西側には段違いの規模の音更川が流れているのですが、この「サックシュオルベツ川」は音更川水系ではなくて士幌川水系なのが大変おもしろいところです。

つまり、サックシュオルベツ川と音更川の間には「分水嶺」が存在することになるのですが、地形図を見た感じでは国道 273 号が分水嶺になっちゃってるんじゃないかと思われるのですね。こんな地形は割と珍しいのではないかと。

では今回も「北海道地名誌」を見てみましょうか。

 サックシュオルペツ川 士幌川中流の右に入る小川。夏に通るオルベツ川の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.594 より引用)

sak-kus-{oro-pet} と解したものでしょうか。「右に入る小川」というのが良くわかりませんが、長さでは「士幌川」よりも長いんですよね。そして、非常に紛らわしいことに、東隣(宮島山の向こう)には「サンケオルベツ川」という川が流れているのですが、こちらはなんと利別川水系の居辺川の支流だったりします。「オルベツ川」だと「居辺川」のことのようにも思えてしまうのですが、サンケオルベツ川と混同したということでしょうか。

どうにも良くわからないので、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょうか。

この語義についても記録を見たことがない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.314 より引用)

あんららら……(汗)。

この川の西側は広い湿原だった処なので,士幌川本流から見てサ・クㇱ・シュホロペッ「前の方を・通る・士幌川(支流)」の意だったか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.314 より引用)

sa-kus-{shu-oro-pet} で「前・通る・士幌川」ではないか、ということですね。

あるいは南北の通路になっていてサッ・クㇱ・シュホロペッ「夏・通る・士幌川(支流)」ででもあったろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.314 より引用)

これは sak-kus-{shu-oro-pet} で「夏・通る・士幌川」説ですね。やはり、こういう考え方に収斂してしまいますよね。

サックシュオルベツ川は国道と並流するくらいですから、河原を通行路として使うには悪く無い川だったようにも思えます。ただ、現在の士幌町の市街地から見ると「最も手前にある士幌川」だったのも事実なので、どちらも決め手に欠ける感じがします。「士幌川」と「居辺川」の類似性も気になりますが、これも良くわかりませんね……。

明治期の地形図には「サックシューオルペッ」とあるので、この字からは sak-kus-{shu-oro-pet} か、あるいは sak-{shu-oro-pet} となりそうな感じもしますね。

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