2016年6月5日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (345) 「ベニカル沢・ペテガリ沢川・ベッピリガイ沢川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ベニカル沢

昔、ベニート・カルボーネというサッカー選手がいたのですg(ry

……コホン。静内川の源流を遡ると「コイカクシュシビチャリ川」と「コイボクシュシビチャリ川」の二手に分かれます。東から流れてくる「コイカクシュシビチャリ川」には「東の沢ダム」というダムがあるのですが、そのダム湖である「東の沢調整池」に北から注ぐ川の名前です。かなり山深いところなので、東西蝦夷山川地理取調図などにも記載がありません。

さて、ベニート・カルボーネに思いを馳せるのも程々に「ベニカル沢」について検討したいのですが、山田秀三さんの「北海道の地名」にこんな記述を見付けました。

ただ気にかかるのは,明治29年図では,コイカクシシビチャリ川の一番下の北支流,河川一覧ではシビチャリ川となっている沢に,ペテカリペッと書いてある。これだとペテガリ岳とだいぶ離れるので,何か変だなと考えて来た。どなたかにこの点は検討していただきたいものである。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.355 より引用)

確かに、明治期の地形図を見てみると、ベニカル沢のところに「ペテカリペッ」と書いてありますね。「ペテカリ」は {pet-e}-kar-i で「{川の頭(水源)}・回す・もの」を意味します。現在のベニカル沢を見た限りでは、水源がクルっと回っている感じは受けませんから、これはやはり何かの間違いだったということでしょうか。

ここで思い出されるのが、昨日の記事で記した「幻のペテカリベツ」の存在です。戊午日誌や永田地名解では「アベウンナイ」の次の川として「ペテカリベツ」の存在が示唆されていました。

おそらく松浦武四郎が「ペテカリベツ」と「アベウンナイ」の順序を誤認していたのだと思うのですが、後の役人が正直に「『アベウンナイ』の次が『ペテカリベツ』なんだ」と考えてしまったのか、全く違った川を「ペテカリペッ」としてしまったのでは無いでしょうか。

そして、間の悪いことに静内川源流にはもう一つ「ペテカリペッ」があったことから、この「幻のペテカリベツ」が謎の修正(「テ」が「ニ」の誤記だったとする)を受けて「ベニカル沢」になってしまった……と考えてみたのですが、いかがでしょうか?

ペテガリ沢川

コイカクシュシビチャリ川の「東の沢調整池」から更に遡ったところに「ペテカリ山荘」(「ペテガリ山荘」かも)という施設?があるそうなのですが、そこから更に 600 m ほど遡ったところでコイカクシュシビチャリ川は「ペテガリ沢川」と「ペッピリガイ沢川」に分かれています。ペテガリ沢川の源流部の北側には「ペテガリ岳」もあります。

「ペテガリ」の意味については、もう散々書いているので既にバレバレかと思いますが、先人の著作からいくつか引用しておきましょう。

ペテガリ
 静内川源流の川名,山名。ペテガリという名はペッ・エ・カリ「pet-e-kari-i 川が・そこで・回っている・もの(川)」と聞こえる。現在の 5 万分図では,コイカクシシビチャリの東に上っている川に「ペテガリ沢川」と書いてあり,その下流の辺がひどく曲流しているので,それを呼んだ川名であったろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.355 より引用)

おや? ちょいと e の解釈が想定と異なっていますね。続いて更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」から。

 ペテガリ川
 ペテガリ岳に源を発る染退川(現在静内川)水源。ペッ・エ・カリ・ペッは川の頭(水源)をまわる川の意。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.84 より引用)

はい。こちらの解を想定していました。{pet-e}-kari-pet で「{川の頭(水源)}・まわす・川」ではないか、と考えてみました。地形図を見た限りではさほど水源が曲流しているようには見えないのですが、よく見ると川を示す青線が切れた先で 90 度近く北に曲がっています。この状態を指してのことでは無いかな……と考えたのですが、いかがでしょうか。

 ペテガリ岳 1,736.2 メートル 十勝大樹町との境の山で中部日高山脈を代表する峰のひとつ。アイヌ語で「ペテガリカムイシリ」と呼んだ。峻嶮な峰で昭和15年1月北大山岳部が遭難,2年後冬季初登頂がなされた。→ペテガリ川。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.568 より引用)

へぇぇ。こんな歴史があったのですね。ちなみに現時点での三角点は 1735.8 m を示しているようです。まぁ、誤差の範囲でしょうか。

ベッピリガイ沢川

コイカクシュシビチャリ川はペテカリ山荘の少し先で「ペテガリ沢川」と「ペッピリガイ沢川」に分かれています。ペテガリ沢川はベッピリガイ山の北側を流れ、ベッピリガイ沢川はベッピリガイ山の南側を流れています。……そろそろ「ベッピリガイ」がゲシュタルト崩壊を起こしそうな感じでしょうか。

山の中の支流の名前ですが、山田秀三さんの「北海道の地名」に記載がありました。早速見てみましょう。

ペツピリカイ
 コイカクシシビチャリ川の源流の南股の川名,山名。ペッ・ピリカ・イ「pet-pirka-i 川が・良い・もの(川)」と聞こえる。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.355 より引用)

現在、地形図で見た限りでは「ベッピリガイ」とされていますが、山田さんは「ペツピリカイ」と記していますね。山田さんの表記のほうが標準的なアイヌ語の記法に近いように思えます。pet-pirka-i で「川・良い・もの」と考えるほか無さそうな感じですね。「川が良い」とは何ぞや? という話ですが……

水がよかったのか,歩きいい川だったのか,とにかくいい(ピリカ)川だったのであろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.355 より引用)

まぁ、そんなところなのでしょうね。地形図で見ても、ペテガリ沢川と合流するあたりは峻険な谷のようですが、さらに遡ると山中とは思えないほどゆったりした谷(U 字谷?)に見えます。このことを指して「川が良い川」と呼んだということでしょうか。

ベツピリガイ山はその川の上にある山なので呼ばれた山名であろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.355 より引用)

ふーむ。これを見ると山名は既に「ベツピリガイ」だったようですね。アイヌ語には濁音と半濁音の違いは無いので、どちらでも問題ないと言えばそれまでですが……。面白いことに、現在の「ベッピリガイ」は pet の促音が復活しています。petbetsu になることが多いだけに、betsu から bet に戻っているのは比較的珍しいのではないかと……。

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