2016年7月9日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (354) 「滑若・ポキアップ川・アブカシャンペ川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

滑若(なめわっか)

新冠川中流部の旧地名・旧村名ですが、現在は改名されてしまい、唯一「滑若橋」の名前にその面影を残すのみとなっています。

更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」に記載がありました。

 (いずみ)
 新冠町の奥の字名。もと滑若と呼んだところ、語源はナム・ワッカ(冷たいのみ水)であったので、昭和二十九年泉と改名したものである。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.82 より引用)

はい。実は静内川源流部の「ナメワッカ沢」と同じく、yam-wakka(冷たい・水)がこのあたりでは nam-wakka になるんだよ、というお話でした(意味は同じで「冷たい・水」です)。

念のため、今一度知里さんの「──小辞典」から引用しておきます。

nam-wakka なㇺワㇰカ 【H 南】冷水。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.63 より引用)

それにしても、「滑らかな若さ」で「ナメワッカ」というのもなかなか傑作ですよね。まぁ、地名だと「滑川」や「常滑」のように先例多数ですが……。

ちなみに、戊午日誌「東部毘保久誌」には次のような記述があります。

またしばしを過て
     ヤムワツカ
右のかた平地の方相応の川有。其川清冷なる故此名有るなり。ヤムワツカは此水の夷言。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.175 より引用)

松浦武四郎は「東蝦夷日誌」や「東西蝦夷山川地理取調図」でも一貫して「ヤムワッカ」としています。また、永田方正も同様だったようですね。yam-wakka は比較的広範囲に通じる表現で、nam-wakka は一部地域でのみ通じる方言だ、という認識だったのかもしれません。

ポキアップ川

新冠町泉のあたりで新冠川は左に大きく向きを変えていますが、ちょうどその辺りで新冠川に合流する西支流(厳密には北側の支流なので「北支流」のほうがいいかも)の名前です。

東蝦夷日誌には「ホキヤツ」と記されています。また、戊午日誌「東部毘保久誌」にも次のように記されていました。

しばしまた過て
     ホキヤツ
左りの方小川。其名義不解也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.177 より引用)

気になる意味ですが、残念ながら「其名義不解也」のようですね。ただ、幸いな事に頭注にヒントがありました。

ポク 下の
ヤチ 湿地
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.177 より引用)

ふーむ。「ホキ」が pok なのは同感なのですが、「ヤチ」が yachi では無いかとの説については、一概に否定はできないものの、少し首を傾げてしまいます。yachi は日本語の「谷地」と同根の語彙だと思うのですが、それが問題なのではなく、単純に「本当にヤチが多いのかな?」という疑問です。

永田方正も「ホキヤツ」の解には疑問を感じたらしく、次のように新説を開陳していました。

Top ya  トㇷ゚ ヤ  竹岡 松浦地圖「ホキヤツ」ニ誤ル
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.248 より引用)

む、これは……。随分と大胆な感じがしますね。実際に竹の多い丘があるのであれば一考の余地があるのですが、果たしてどうなのでしょうか。

少々強引なやり方ですが、現地の地形から別の解を考えてみました。新冠川の支流は段丘を削って流れている(=それほど地形が険しいわけでは無い)ものが多いのですが、ポキアップ川はこれまでの川とは違って深い谷の中を流れているように見えます。また、川の両側にそこそこの高さのある尾根が聳えているので、日差しが遮られることが多いようにも思えるのですね。

ということで、poki-at-i で「その影・多くある・ところ」と考えてみたのですが、いかがでしょうか。

pok は本来は「下」「しも」と言った意味ですが、時折「影」(「陰」かな?)という意味でも使われていたような気がするので、このような解釈にしてみました。

アブカシャンペ川

前にもどこかで聞いたようなシリーズ・第二弾です(いつからシリーズ化?)。お隣の静内川の上流部に「上アブカサンベ沢川」という川があったのですが、ご記憶でしょうか。

今回話題にしている「アブカシャンペ川」は、新冠川の中流部にある南支流の名前です。ポキアップ川から 4~5 km ほど上流部で新冠川に注いでいます。

永田地名解に記載がありましたので、早速見てみましょう。

Apkosampe = Apku-o-san pe  アㇷ゚コサンペ  牡鹿ノ下ル處 松浦地圖「アフユサレヘ」ニ誤ル
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.248 より引用)

ということで、apka-o-san-pe で「雄鹿・そこで・下りる・ところ」と考えたようです。また「松浦地圖『アフユサレヘ』ニ誤ル」とありますが、確かに「アフユサンヘ」と書いてあるようにも見えますね。大きな間違い?としては、現在の「アブカシャンペ川」は南支流ですが、東西蝦夷山川地理取調図には北支流として書かれているところでしょうか。

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