2016年7月10日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (355) 「スタップ川・パンケウクツライ川・ツウイ沢」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

スタップ川

新冠川中流部の北支流の名前です。そう、「スタップ川」はこんなところに実在していたんですね……。スタップ川は、アブカシャンペ川が新冠川に合流するところから 7~800 m ほど上流に遡った所で新冠川に合流しています。近くに水力発電所がありますね。

永田地名解に記載がありまぁす、ということなので早速見てみましょう。

Uttap  ウッ タㇷ゚  鮃(カスベ) 洪浪ノ時カスベ魚多ク此處ニ上リシヲ以テ名クト云フ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.248 より引用)

「カスベ」は「エイ」のことですが、知里さんの「動物編」によると、太平洋側では「エイ」のことを uttap と呼んでいたようです。それにしても、「洪水の時にこの辺りで『エイ』が大量に上がったから」というのは……。このあたりは海抜 120 m くらいある筈なんですけどね。

ただ、この説は永田方正のオリジナルでは無く、戊午日誌「東部毘保久誌」にも次のように記されていました。

     フツタフ
〓(かすべ)の義。むかし海嘯の時此処まで上りしと云より号く
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.179 より引用)※ 〓は魚偏に華

わりとどうでもいいツッコミを入れますと、永田方正は「鮃」と記していますが、「鮃」は「ヒラメ」のことです。また、松浦武四郎は「魚偏に華」という字を使っていますが、「𩸽」であれば「ホッケ」のことみたいです(「魚偏に華」という字は正体不明)。

さて、この「スタップ川」の由来についてですが、「エイが漂着した」というストーリーは広く認識されていたようなので「正解」の一つとして認識するとして、やはり別に「本来の意味」もあったんじゃないかと思うのです(「イドンナップ」と似たような感じで)。

地図を見ながら検討してみたのですが、put-tapsi-tap あたりの可能性は考えられないでしょうか。tap には「肩」という意味があるのですが、この「スタップ川」は両岸のずっと奥まで結構な高さの山が聳えているのですね。このことを「肩」と形容したんじゃないかなぁ、と。

put-tap であれば「口・肩」となります。「口」は川を遡る場合の入り口を意味しますから、川の合流部から見た場合に両方の肩をいからせているように見えたんじゃないか……と考えてみたのですが、いかがでしょうか。

パンケウクツライ川

新冠町岩清水には水力発電所があるのですが、その上流部で新冠川に合流する南支流の名前です。600 m ほど上流では「ペンケウクツライ川」も合流しています。

今回も永田地名解に記載がありまぁす、ということで(やめなさい

Panke oukot nai  パンケ オウコッ ナイ  下ノ合川 松浦地圖「ハンケヲクラハ」ニ誤ル
Penke oukot nai  ペンケ オウコッ ナイ  上ノ合川 松浦地圖「ヘンケヲクラハ」ニ誤ル
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.246 より引用)

ふむふむ。知里さんが大好きだった「交尾する川」だったんじゃないか、という説ですね。戊午日誌「東部毘保久誌」にも記載があったので、見ておきましょうか。

またしばしを過て
     ハンケヲクマナイ
     ヘンケヲクマナイ
等も右の方、相応の川すじ也。其名義も不解よし答えぬ。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.180 より引用)

由来については、いつもの「よーわからん」状態のようですが、頭注には「午十三手控 ヲクツナイ(オウコツ) 合流する川」と記されていました。永田地名解と同じ見解のようですね。

(2016/8/6 追記)panke-{o-u-kot}-nay で「川下の・{交尾する}・沢」と考えて良いかと思います。

最近は段々と性格がひねくれてきたのか(元からかも)、こういった記録に対しても「本当かな?」と思ってしまうのですが、地形図で「パンケウクツライ川」「ペンケウクツライ川」を見ても、「オウコッしている」(河口部で他の川と合流している)ようには見えないんですよね。最近は河川の整備が進んだ関係で「オウコッしている川」が少なくなっているのですが、例えば白糠町の「庶路川」と「コイトイ川」なんかがそんな感じです。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

こんな感じで、海、または本流に注ぐ直前で他の川と合体するような川を「オウコッしている川」(交尾している川)と呼ぶ場合が多いのですね。従って、「パンケウクツライ川」「ペンケウクツライ川」は「オウコッしている川」とは(個人的には)考えづらいのです。
地形と音から考えると、panke-o-kut(-un)-nay で「川下の・河口に・崖(・ある)・沢」あたりではないかと思うのですが、いかがでしょうか。panke- だと「川上の」ですね。

2016/8/6 追記
新冠町西部の比宇川の支流にも、川の途中で合流する川を「ヲウコツナイ」「ヘンケヲウコツナイ」としているケースがありました(o-u-kot-nay を知里さんの流儀に従って「交尾する沢川」と考えることで、この矛盾は解消できるかと思います)。従いまして、「パンケウクツライ川」が panke-o-u-kot-nay である可能性が高くなりました。

ツウイ沢

ペンケウクツライ川の合流点から 8~900 m ほど上流部に遡ったところで新冠川に合流する沢の名前です。地理院地図の地形図では青い実線(川)としては描かれていませんが、川の名前だけ記されています。常に水があるわけでは無いのかも知れませんね。

戊午日誌「東部毘保久誌」に記載がありました。

またしばしを過て
     トヱイ
左りの方小川也。川口より大岩壁峨々と有るよしなり。またしばしにて
     ホントヱイ
同じく左りの方小川也。其名義不解なり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.180 より引用)

伝家の宝刀「其名義不解なり」が出ていますが、続いて永田地名解を見てみましょう。

Pon tuye   ポン ト゚イェ  小崩
Poro tuye  ポロ ト゚イェ  大崩
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.247-248 より引用)

あっ。思っていた以上にふつーの地名だったのですね。「ツウイ沢」は tuye で「崩れる」という意味と捉えて良さそうな感じでした。poro-tuyepon-tuye があったようですが、戊午日誌に記された順序から考えると、現在の「ツウイ沢」は poro-tuye だったと考えて良さそうに思えます。

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