2016年9月3日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (370) 「アブシ川・シカルスナイ沢・パンケルナイ沢」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

アブシ川

ap-us-i?
鈎針・多くある・もの


平取町は額平川に注ぐ支流の名前です。アブシ川が額平川に合流したところから 500 m ほど下流には「アブシ橋」という橋もあります。

さて、この「アブシ川」ですが、手元の資料には記載が見当たりません(見落としていたらすいません)。ただ、戊午日誌「東部沙留誌」を見た感じでは、もしかしたらこの川のことかも知れないな……という記載がありました。

また向の方に
     ビバウシ
右の方平地の中に小川有。此川蚌多く有るよりして此名有。ビバは蚌の事也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.30 より引用)

戊午日誌には「ビバウシ」は「シユブン」(志文川?)の向かい側の川で、「しばし過て」「トウナエ」(トエナイ川?)だと記されています。実際のアブシ川はトエナイ川の合流点からすぐ下流部で額平川に合流しているので、厳密には合致していないのですけどね。

まぁ、そもそも「アブシ」が「ビバウシ」の転訛と考えるのもちょっと無理がありそうな感じもします。pipa-us-i であれば「カラス貝・多くある・もの(川)」ですが(道内各所に多い地名ですね)、「アブシ」だったら ap-us-i と読み解くのが自然でしょうか。これだと「鈎針・多くある・もの」となりそうです。

もう少し踏み込んだ仮説として、「アブシ」が「アフン」の誤記だった可能性も考えておいてもいいかもしれません。ahun(-par) であれば「入る(・口)」と考えられます。または apa-us-i で「入口・ある・もの」とも考えられそうです。

シカルスナイ沢

i-sik-ru-un-nay?
それが・いっぱいである・道・ある・沢


江無須志山の南を流れる宿主別川は、額平川の支流の中でも大きなものの一つです。「シカルスナイ沢」は、その宿主別川に注ぐ南支流の名前です。

戊午日誌「東部沙留誌」には次のように記されていました。

またしばし過て
     イシカルンナイ
右の方小川。其名義は奥の方つき当り閉りて有る処を云よし。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.33 より引用)

これはちょっと解釈が難しかったのですが…… i-sik-ru-un-nay あたりでしょうか。これだと「それが・いっぱいである・道・ある・沢」と解せたりしないかな……と(かなり弱気)。

パンケルナイ沢

panke-ru-nay
川下の・融ける・沢


シカルスナイ沢との合流点から更に宿主別川を遡ると「パンケルナイ沢」があり、その隣には「ペンケルナイ沢」があります。

今回は久しぶりに「北海道地名誌」から。

 パンケ(ペンケ)ルナイ沢 豊糠地区左支流沢。川下の(川上の)路の川の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.558 より引用)

panke-ru-nay で「川下の・路・沢」と解したようです。一見至極まっとうな解に思えますが、改めて実際の地形を確認してみると、どちらの川も高山に向かっていて、峠道としてはあまり適切とは思えないんですよね。

さて、戊午日誌「東部沙留誌」には次のように記されていました。

また少し上りて
     ハンケルナイ
     ヘンケルナイ
ニ河とも右の方也。小川也。其名義は此二河とも春雪が早く融るよりして号しとかや。此沢下に谷地有、少し水気有る也。よって号るとかや。ルとは消ると云事也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.33-34 より引用)

なるほど、panke-ru-nay で「川下の・融ける・沢」としたんですね。これはうまい解を考えたものです。この両川の下流には「イワナイ」という川の存在も記録されていて、一説によれば「むかし温泉気有りし」とも記されているので、あるいは地熱が豊かなところがあったのかもしれませんね。

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