2016年11月20日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (393) 「ショモチレコナイ沢川・カイクマ川・チチヤップ川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ショモチレコナイ沢川

{somo-ki}-re-ko-nay
{しない}・名前・持つ・沢


鵡川の支流であるルベシベ川の、その更に支流となる「パンケルベシベ沢川」に注ぐ支流の名前です。えーと、鵡川から見ると支流の支流の支流ということになりますね(汗)。

あまり類を見ない名前なのでなんだろうなーと思っていたのですが、戊午日誌「東部武加和誌」に記載がありました。

  また少し上り
       シヨモチシユナイ
  右の方小川也。其名義は元より名が無と云事のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.546-547 より引用)

え……? 元から名前が無い……?

「シヨモチシユナイ」をどう読み解けば「元から名前が無い」となるのか不明だったのですが、現在の名前である「ショモチレコナイ」であればちゃんと読み解けることがわかりました。{somo-ki}-re-ko-nay で「{しない}・名前・持つ・沢」となるのではないかと。

「レコ」が「シユ」になってしまったのは、字形が似ていたからなのでしょうね(東西蝦夷山川地理取調図でも「シ」と「レ」を見間違えるのは割と良くある話です)。では何故「正しい形」(と思われる形)に戻ったのか……という話になるのですが、北方資料デジタル・ライブラリーに収められている「北海道測量舎五万分一地形図 日高国」では「ショモチレコナイ」と記録されているように読み取れます。この地形図を作成する時に現地の人から川の名前をヒアリングしてそのまま記録したとか、そういった事情があったのかなぁ……と想像しています。

カイクマ川

kaykuma


ルベシベ川の北、和泉上集落のあたりを流れている鵡川の東支流の名前です。なぜか永田地名解には記載がなさそうなので、戊午日誌「東部武加和誌」を見ておきましょうか。

扨我は此処に舟を置、是より村の上三丁計上りて
     カイクマ
左りの方、ルベシベの村の三丁計上少しの山の上の事也。其名義は昔し枯柴を薪に取りしと云事の由なり。此下白崩平に成りて、其下深潭也。人家六軒有、一々是を見るに、此度の洪水には少しも乗らざりしと云り。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.549-550 より引用)

色々と注意が必要な感じがしたので、ちょっと長めに引用してみました。真っ先に気づかされるのが「左りの方」ですね。ルベシベ川は東側(右の方)にあるので、これは「右」と「左り」を間違えたのではないか……と考えたくもなるのですが、実はこのあたりには「ルベシベ」が複数あり、ここで言う「ルベシベ」はどうやら sum-un-tek-{ru-pes-pe}(西・そこにある・ようである・{峠川})らしいのですね。つまり、本来の「カイクマ」は鵡川の西側の地名だったと考えられそうです。

引用文を読んだ限りでは、カイクマは「小高い山の上」「山の下の方は崖になっている」「崖の下は深い川」「家が六軒ある」という特徴を持つ場所のようです。この条件に合致するのは、現在の地形図に「新興」とあるあたりでしょうか。

地名の意味は「昔し枯柴を薪に取りしと云事」でいいのでしょうね。萱野さんの辞書には次のようにありました。

カイクマ【kaykuma】
柴,薪:おとなの指より太い柴薪.膝にあてて両方の手で引っ張って折れるくらいのものまでを言う.
(萱野茂「萱野茂のアイヌ語辞典」三省堂 p.190 より引用)

ということで、kaykuma は「」であると考えて良さそうです。ただ、「カイクマ」にはもう一つ意味があるみたいで、

カイクマ【kaykuma】
ウサギ:勇払郡穂別地方その他で.チ・コㇿ コタン タ アナㇰネ イセポ セコㇿ ア・イエㇷ゚ ネ コㇿカ ムカ ホントモ タ アン コタン タ アナㇰネ カイクマ セコㇿ ア・ポㇿ セㇷ゚ ネ=私たちの村ではウサギをイセポと言うけれど鵡川という川の中ほどの村ではカイクマと言う(表現する)のだよ.
(萱野茂「萱野茂のアイヌ語辞典」三省堂 p.190 より引用)

他ならぬ穂別のあたり限定らしいのですが、kaykuma で「うさぎ」を意味することがあったのだとか。

山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のようにありました。

 平賀さだも媼は「私たちは穂別とはいわない。カイクマ,あるいはカイクマナイと呼んでいた。雑木の多い川筋である。このカイクマは兎ではない」と語られた。カイクマは兎,薪の意である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.372 より引用)

この項には「穂別 ほべつ(カイクマ)」という見出しがつけられていました。ただ戊午日誌や東西蝦夷山川地理取調図を見た限りでは、それらにある「カイクマ」と現在の「穂別」が同一の場所を指しているとはちょっと考えがたいのですよね。穂別から「カイクマ」だったと思われる場所までは、おおよそ 1.5 km ほど離れているように思えるのです。

チチヤップ川

chichap
ジダケ


穂別豊田の北を流れる鵡川西岸の支流です。東西蝦夷山川地理取調図には見当たらないのですが、戊午日誌「東部武加和誌」に記載がありました。早速ですが見てみましょう。

また少し上りて
     チヽシヤフ
左りの方小川、山の間にさし入る也。其名義は此沢に菅が多く有りしによって苅て干たと云事のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.552 より引用)

これまたあまり目にしたことの無い地名が出てきました。知里さんの「植物編」によると、どうやら chichap で「ジダケ」を意味するとのこと。

§382. ジダケ
    Sasamorpha purpurascens Nakai var. borealis Nakai
( 1 ) chichap(chi-cháp)「チちャㇷ゚」[我らが・刈る・もの] 莖葉 ((A 十勝))
( 2 ) huttat(hút-tat)「ふッタッ」[→§381 (8)] 葉 ((A 千歳))
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 植物編』」平凡社 p.222 より引用)

「ジダケ」とは何ぞや……という話ですが、学名で検索した感じでは「スズタケ」が該当しそうでした。また、Wikipedia の「クマザサ」の項には次のように記されていました。

日本のブナ林では林床に大型のササ類が密生することが多く、これらもまとめてクマザサと言われることもある。チシマザサ Sasa kurilensis、スズタケ Sasamorpha borealis、クマイザサ Sasa senanensis、チマキザサ Sasa palmata、ミヤコザサ Sasa niponica などのクマザサと同じササ属 Sasa の笹が往々にしてクマザサ扱いされる。一般的に、多雪の日本海側ではチシマザサ、クマイザサ、チマキザサが、少雪の太平洋側ではスズタケや小型のミヤコザサがその位置を占める。
(Wikipedia 日本語版「クマザサ」より引用)

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