2017年1月8日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (406) 「深歌川・初松前・青苗」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

深歌川(ふかうた──)

purke-ota?
大水が出る・砂浜


大カカリ石から 1 km ほど南を流れている川の名前です。東西蝦夷山川地理取調図には「フカヲタ」と記されています。また、西蝦夷日誌には次のように記されています。

フカヲタ(沙)
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.21 より引用)

あと、戦前の地形図には「フケ歌澤」とありました。さて……これ以上のネタが無いのですが……(汗)。音から考えると……そうですね。purke-ota で「大水が出る・砂浜」とかどうでしょう。

初松前(はつまつまえ)

hum-us-oma-i?
音・多くある・そこにある・もの


奥尻島南部の地名です。現在このあたりは奥尻町松江に含まれますが、松江は元々「薬師」という地名で、村の名前は「薬師村」でした。

ということで、まず「薬師」について、「角川──」(略──)を見てみましょう。

 やくし 薬師 <奥尻町>
 渡島(おしま)半島西方,奥尻島の南部。地名の由来は,アイヌ語で「対岸の陸」という意味のヤクシによるとする説(アイヌ語地名解)と,安永元年瑠璃光薬師如来を祀ったことにちなむという説(久遠郡役所沿革誌)とがある。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1545 より引用)

ふむふむ。今は失われてしまった「薬師」という地名にそんな由来があったとは。ya-kus-i で「陸・向こう・ところ」と読むことができますね。

なお,狭義には弥右衛門岬から薬師岬までの地域を薬師と称し,江戸期には「ヲヤコチ」とも呼んだ。このヲヤコチは,アイヌ語のオヤコッ(別の地の意)によるという(北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1545 より引用)

確かに東西蝦夷山川地理取調図にも「ヲヤコチ」とあります。o-ya-kot で「尻・陸・ついている」となりますが、これで「半島」という意味になるのだとか。道内他所でもちょくちょく見かける地名ですね。

さて、ようやく本題の初松前ですが……

南部の初松前の地名は,アイヌ語のハマシマイ(汐が引く時大きな音がする所の意)によるという説(アイヌ語地名解)と,享徳 3 年松前家始祖の武田信広と,佐々木繁綱・工藤祐長の主従が,奥州田名部から渡海の折に上陸した旧地であるという伝説から,ハツマツマイの地名となったとする説(奥尻町史)がある。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1545 より引用)

奥尻には江戸時代から和人の来訪記録があるので、地名がアイヌ語に由来するのか、あるいは和語に由来するのかが判りづらいんですよね。武田(蠣崎)信広が上陸した地なので「初松前」というのは地形的にも蓋然性があるのですが、一方で「初松前」は元々「はまつまえ」と読まれていたようなので、「ハマシマイ」説もなかなか魅力的です。hum-us-oma-i で「音・多くある・そこにある・もの」と考えられそうでしょうか。

なお,初松前はアイヌ語でイタタウシュナイと呼ばれており,これは「屠割の沢」を意味し, オットセイを屠殺していた所であったことによるという(北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1545 より引用)

「東西蝦夷山川地理取調図」で、初松前の位置で記録されているのが「イタヽウシナイ」でしたが、これは現在の「赤川」のことを指すのかもしれません。i-tata-us-nay で「それ・叩き切る・いつもする・沢」と考えられそうですね。

青苗(あおなえ)

wao-nay
アオバト・沢


奥尻町青苗と言えば、奥尻島最南端の「青苗岬」のあるところとして有名ですが、東西蝦夷山川地理取調図には現在の「青苗川」のところに「アヲナイ」と記されていました。

一見、和名にしか思えないのですが、永田地名解にはこんな記載がありました。

Wao nai  ワオ ナイ   ワナ鳥ノ澤 「ワオワオ」ト鳴ク鳥多キニ因テ名クト云フ靑苗村ト稱ス
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.145 より引用)

わぁお(お約束)。これまた永田さんお得意のアレが出ましたか(笑)。知里さんが

 しかし,「シペッ」とか,「チパイ」とか,「ト゚ピウ」とか,「チパシリ! チパシリ!」とか,まるで蝦夷語地名解を書く人のために鳴いているような鳥が,はたして実在したかどうか,すこぶる怪しく思われるのである。
(知里真志保「アイヌ語入門 復刻─とくに地名研究者のために」北海道出版企画センター p.22 より引用)

と悪態をつきそうな解ですが、その知里さんの「動物編」を見ると……

§359. アオバト Sphenurus sieboldii sieboldii (Temminck)
( 1 ) wawów (ワうぉウ)[<鳴声]((クッシャロ))
( 2 ) waó (ワお)[<鳴声]((ウラカワ; クッシャロ))
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 動物編』」平凡社 p.209 より引用)

わお!(またか)。どうやら「アオバト」のことを指しているようですね。waó は土地によっては eáoeyáo とも呼ばれたようですので、最終的に「アオ」に化けたとしても特に不思議は無さそうです。wao-nay で「アオバト・沢」と考えて良さそうですね。

ちなみに、青苗岬のあたりは「エヘウケエシヨ」と呼ばれていたようで、これは ehewke-iso で「斜めの・波かぶり岩」と考えていいのかなぁと思います。

永田地名解の e-petke-iso という解がちょっとアレな感じがしたので……。

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