2017年4月2日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (429) 「チブタウシナイ川・ペタヌ川・メムナイ川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

チブタウシナイ川

chip-ta-us-nay
舟・彫る(作る)・いつもする・沢


長万部町知来のあたりを流れている知来川の支流です。では早速ですが「東蝦夷日誌」を見てみましょう。

 右方チライ(右)、チフタウン(右)、ホンチフタウシ等過。源エナヲ峠に至る。
 左本川也。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(上)」時事通信社 p.39 より引用)

「チフタウン」……(汗)。「チフタウシ」の誤記か、あるいは誤植でしょうか。ついでに言えば「右」(右支流)というのも間違いなのですが、このあたりは東西蝦夷山川地理取調図も同じミスを犯していますね。

永田地名解には、「オシャマムベ川筋」の川の中に次の記載がありました。

Poro Chip ta ush nai  ポロ チㇷ゚ タ ウㇱュ ナイ  多ク船材ヲ取ル川
Pon Chip ta ush nai   ポン チㇷ゚ タ ウㇱュ ナイ  稍船材ヲ取ル川
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.171 より引用)

Poro の「多く」は理解できるとして、Pon の「稍」って何だろう……と思ったのですが、この場合は「やや」と読むのが適切でしょうか。もっとも、この解は事実上間違いのようなもので、「チプタウシナイ」という川の本流と支流を意味していると考えるべきかと思います。現在の「チブタウシナイ川」が「ポロ──」で、「田尻川」が「ポン──」だったのかも知れません。

「チブタウシナイ」は chip-ta-us-nay で「舟・彫る(作る)・いつもする・沢」と考えていいかと思います。同じような名前の川が道内各所にありそうですね。

ペタヌ川

pet-aw
川・枝


JR 函館本線の二股駅のあたりから、長万部川を西に(直線距離で)3.7 km ほど遡ったところで合流している支流の名前です。ということで、今回はなぜか「北海道駅名の起源」を見てみましょう。

  二 股(ふたまた)
所在地 (胆振国) 山越郡長万部町
開 駅 明治36年11月 3 日(北海道鉄道)
起 源 アイヌ語の「ペタヌ」(川また)からとったもので、長万部川とチライ川とが合流して、「二股」をなしているところをさしたものである。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.27 より引用)

ほう(わざとらしい)。

さて、「ペタヌ」という単語は手元の辞書類には見当たらないのですが、山田秀三さんの「北海道の地名」の「太櫓川の上流」という項目に、次のように記されていました。

ベタヌは petanu(二股)の意。pet-au(川・枝)の転語。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.450 より引用)

ほう(本日二度目)。

ということで「地名アイヌ語小辞典」を確認してみたところ……

aw, -e【H】/-he【K】 あゥ ① 木や鹿角の枝; 川で云えば枝川。「にヤゥ」(<ni-aw 木の枝)。「キらゥ」(<kir・aw「骨・枝」「つの」)。「ペタゥ」(pet-aw「川・枝」「枝川」)。──鉤または釣針を「アㇷ゚」(ap)と云うが,この語は「あゥ」と語原が同じで,古く木や角の枝を利用して鉤や釣針を作ったことを示すものであろう。[<am(うで)? ]。 ② 舌。 ③ 内。(対→soy)。 ④ 隣。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.12 より引用)

あぅ(お約束)。ちゃんと pet-aw で「川・枝」と書いてあるではありませんか。知里さん流石ですね。

現在、道内のあちこちに「二股」という地名がありますが、その多くは「ペテウコピ」と呼ばれていたところです。「ペテウコピ」は pet-e-u-ko-hopi-i で「川が・そこで・互・に・ 捨て去る・所」と解釈できます。ちょっと感傷的になりそうな地名ですよね。

「ペタヌ」を「二股」とした例はどの程度あるのでしょう。「ペタヌ」の解釈ですが、今日のところは pet-aw で「川・枝」としておこうと思います。

メムナイ川

mem-nay?
泉池・沢
nam-nay?
冷たい・沢


JR 函館本線の二股駅を囲むように流れている川の名前です。ということで、今回はなぜか「北海道駅名の起源」をスルーして進めます(なぜだ)。

mem は「泉池」を意味する単語で、nay は「沢」を意味しますから、mem-nay は「泉池・沢」でファイナルアンサーとなる筈なのですが……。

東蝦夷日誌には次のように記されていました。

ナムメム(同)、メム(同)木立笹原也。二股(人家一軒)、右チライ、左ヲシヤマンベツ。是を越る。急流なり(出水の時船有)。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(上)」時事通信社 p.39 より引用)※「笹」は「竹」の下に「若」

はい。どうやら「メム」以外に「ナムメム」という川があったように見受けられるのですね。改めて東西蝦夷山川地理取調図を見てみると、「左川」として「ナムナイ」という川があり、右側の地名として「メム」がそれぞれ記されています。

「メムナイ」と「ナムナイ」、「メ」と「ナ」は結構似ているので、どちらかが間違いである可能性が高いのですが、さてどっちが間違いなのか……。mem-nay であれば「泉池・沢」ですし、nam-nay であれば「冷たい・沢」です。

mem という地名は近くに存在を伺えるので蓋然性はあるのですが、逆にそのために nammem と誤ったという可能性も浮上してきます。どっちが合ってるのかよーわからん、というのが本日の結論です(汗)。

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