2017年5月13日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (436) 「珍古辺川・志文内・サックルベツ川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

珍古辺川(ちんこべ──)

人名「甚五兵衛」?


今金町花石のあたりで後志利別川に注ぐ支流の名前です。いちぶではちょっと名の知られた珍名ですが……

更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には、次のように記されていました。

 珍古辺川(ちんこべがわ)
 皮を張る沢の川の意。利別川左小川。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.25 より引用)

ほう。皮ですか(汗)。なるほど、これは確かに珍名ですね(何を言ってるんだ)。……えーと、chin は「(皮を)張る」という意味の不完動詞ですから、chin-???-pet と考えたのでしょうね。残念ながら ??? に当てはまる語が不明ですが、たとえば萱野さんの辞書には chin-kuwa で「皮張り棒」という語彙がありました。皮の張った棒……これは確かに珍名ですね(再掲)。

さて、そんな「珍古辺」ですが、丁巳日誌「報登宇志辺津日誌」には次のようにありました。

是よりまた針位午・巳・辰と取て三四丁にて
     ジンゴベ
此処左り岸平地にて箬原なり。樹木赤楊・赤たも・柳多し、むかし甚五兵衛といへる金丁家居したりとかや。依て号るよしなり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.399 より引用)

えっ……! ただ、「皮張り棒の川」よりは(個人的には)ありそうな気がしています。今日のところは、「珍古辺」は人名「甚五兵衛」ではないか、としておこうと思います。

志文内(しぶんない)

supun-nay
ウグイ・沢


後志利別川が謎の大蛇行をしているあたりに「中里」という集落がありますが、中里の東側に「志文内橋」という橋が架かっています。志文内橋のすぐ下流で後志利別川と合流する川の名前が「ホンシブンナイ川」で、志文内橋のすぐ上流で後志利別川と獰竜しているのが「上シブンナイ川」です。

また、戦前の地形図を見た感じでは、元々「中里」という集落自体が「シブンナイ」という名前だったみたいですね。……漢字で「志文内」というのは橋の名前だけのような気もしてきましたが、気にせず続けましょう。

丁巳日誌「報登宇志辺津日誌」には次のように記されていました。

又針位を未申に取しばし下り凡三丁、
     シフヌンナイ
左りの方平地に相応の川有。此川桃花魚多きよりして号るなり。シラリカ越また此処えも出るよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.399-400 より引用)

「桃花魚」は「ウグイ」のことですね。また、「シラリカ越」というのは八雲町のシラリカ川に出られる、ということなのでしょう。地形図を見てみると、確かにシラリカ川を遡ると(ルコツ川を経由して)ホンシブンナイ川に出られそうです。

永田地名解には次のようにありました。

Pon shupun nai  ポン シュプン ナイ  ウクヒ魚居ル小川
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.135 より引用)

ああ、やはり。supun-nay で「ウグイ・沢」と考えて良さそうですね。

サックルベツ川

sak-ru-pes-pe
夏・道・そって下る・もの
sak-ru-pet
夏・道・川


今金町奥沢で後志利別川に合流する支流の名前です。このサックルベツ川を水源に向かって遡り、峠を越えて八雲町に入った先にも同名の「サックルベツ川」が流れています。

丁巳日誌「報登宇志辺津日誌」には次のように記されていました。

また針位酉に向て五六丁行て、左りの方に
     サクルベシベ
左りの方川口有。巾凡五六間にて急流。其両岸平地箬原なり。其訳は夏の山越と云事のよし。サクは夏と云事、ルベシベは山越と云事也。此処丸小屋一ツ有。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.404 より引用)

ふむふむ。どうやら元々は「ルベシベ」だったようですね。永田地名解にも次のようにありました。

Sat rupesh be  サッルペㇱュ ベ  乾路 乾涸ノ川ヲ下ルニヨリ名ク
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.135 より引用)

ん……? 良く見たら微妙に違いますね(sak「夏」ではなく sat「乾いた」になっている)。ただ、現在の川名も「サックルベツ」ですし、今日のところは丁巳日誌準拠の sak-ru-pes-pe で「夏・道・そって下る・もの」と考えようと思います。

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