2024年2月4日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (1112) 「サイヤナイ川・音根内・ルベシュベ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

サイヤナイ川

say-o-nay??
群れ・そこにある・川
(?? = 記録はあるが疑問点あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
釧路阿寒飽別の北、音根内三角点の南西を流れる西支流の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」(1859) にはそれらしい名前の川が見当たりませんが、「北海道実測切図」(1895) には「サイヤナイ」とあります。また「北海測量舎図」には「サイナイ」とあります。

「サイヤナイ」はこの川の麓の地名としても使われていたようで、陸軍図には地名として「サイヤナイ」と描かれています。また「角川日本地名大辞典」(1987) には次のように記されていました。

 さいやない サイヤナイ <阿寒町>
〔近代〕昭和13年~現在の行政字名。はじめ阿寒村,昭和32年からは阿寒町の行政字。もとは阿寒村大字飽別あくべつ村の一部。地内は通称ルベシベの一部にあたる。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.576 より引用)
驚くべきことに、情報はここまでで、後は皆目見当がつきません。似たような川名にも記憶がないですし、さてどうしたものか……と思ったのですが、「釧路地方のアイヌ語語彙集」に次のような語がありました。

say【名】[概](所は saye)群れ(鳥など飛ぶ動物の)。cikappo say 小鳥の群れ〈伊賀〉
(釧路アイヌ語の会・編「釧路地方のアイヌ語語彙集」藤田印刷エクセレントブックス p.139 より引用)
サイヤナイ川は、国土数値情報のデータ上は一本の川として存在している……と思うのですが、実際の地形を見てみると、結構な数に枝分かれしているようにも見えます。このことから say-o-nay で「群れ・そこにある・川」と呼んだのかな、と考えてみました。

あるいは say-oma-nay だったかもしれません。say-oma-nay だったとすると、「サイヤナイ」の「ヤ」は「マ」の誤字だった可能性も出てきますね。

音根内(おんねない)

onne-nay
年老いた・川}
(記録あり、類型多数)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「サイヤナイ川」と「オンネナイ沢川」の間に山が左右から阿寒川に迫っている難所があり、国道 240 号は掘割で超えているのですが、掘割と川の間の北斜面に「音根内」という名前の四等三角点があります(標高 264.8 m)。

この三角点の名前は北を流れる「オンネナイ沢川」に由来すると思われるのですが、陸軍図にも「オンネナイ澤」とあるだけで漢字表記は見当たりません。三角点が選点されたのは 1979(昭和 54)年らしいので、その頃に「音根内」という漢字表記が存在していた……ということでしょうか。

永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

Onne nai   オンネ ナイ   大川
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.337 より引用)
「オンネナイ沢川」はこのあたりの川としては長いほうで(もちろん飽別川あたりとはレベルが違いますが)、いくつかの支流を持つ川なので、「子や孫を持つ川」ということで onne-nay で「年老いた・川」と呼んだと考えられそうです。

「阿寒町史」には「恩根内」と表記されているので、漢字表記にブレがあった、あるいは他と重複する可能性を考慮して意図的に字を変えた……とかかもしれませんね。

ルベシュベ川

ru-pes-pe
路・それに沿って下る・もの(川)
(記録あり、類型多数)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
阿寒川沿いに「上飽別発電所」があり、そこから国道を 0.8 km ほど東に向かったところで道路が分岐していて、「鶴の恵橋」という橋がかかっています。

「鶴の恵橋」のすぐ西で「ルベシュベ川」が南から阿寒川に合流していて、この「ルベシュベ川」の上流部が「阿寒町ルベシベ」とのこと。Google では何故か「白水川」の河口部が表示されますが、これはきっと何かの間違いなんでしょう。陸軍図には現在の「鶴の恵橋」の近くに「留邊蘂」と描かれています。

戊午日誌 (1859-1863) 「安加武留宇智之誌」には次のように記されていました。

また木立原十丁計も過て
     ルベシベヲブウツ
小川有。川口弐丁計にして本川え落る。其間に夷家一軒有。其地名の訳は山路越る処と云儀。ヲブウツとは山が狭り来り箱の如くなりしと云事なり。また此川の向に
      ルベシベナイ
 といへる小川有。是より二日に早く(二日足らずにて)セチリの川すじえ出るによろしと。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.273 より引用)
「ヲブウツとは山が狭り来り箱の如くなりしと云事なり」というのは謎ですが、{ru-pes-pe}-o-putu で「{道に沿って下るもの}・尻・口」とかでしょうか……? このあたり、インフォーマントとのやり取りに若干のすれ違いがありそうな感じですね。

現在も川名は「ルベシュベ川」で、川沿いを溯るとモホロロ川に出ることができます。ru-pes-pe で「路・それに沿って下る・もの(川)」と見て良いかと思います。

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