2020年10月31日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (776) 「樺戸川・総富地川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

樺戸川(かばと──)

kapato?
コウホネ
(? = 典拠あり、類型未確認)
新十津川町の南部を流れる川の名前です。「樺戸」は郡名でもありますが、川の規模は割と小さなものです。

この「樺戸」について、まずは永田地名解を見てみましょう。

樺戸郡 「カパト」(Kapato) ハ水艸ノ名、和名、「ハカホネ」、今人「コウホネ」ト云フ郡中「オサッナイ」ト「ウライウㇱュペッ」ノ間ニ河沼アリ河骨多シ故ニ名ク今人月形村ヲ「カバト」ト思フハ非ナリ文政四年上下樺戸場所ヲ置ク
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.4 より引用)
ふむふむ。「カパト」は「コウホネ」だと言うのですが、確かに知里さんの「植物編」には次のように記されていました。

§266. コォホネ Nuphar japonicum DC.
kapato (ka-pá-to)「カぱト」根莖 《幌別》
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 植物編』」平凡社 p.153 より引用)
ということで、「樺戸」は kapato で「コウホネ」と考えて良さそうでしょうか。

ちょいと余談ですが

現在の「樺戸川」は新十津川町の「南十六号線」に沿う形で直接石狩川に注いでいますが、もともとは石狩川に並行する形で南に流れていました。新十津川町と浦臼町の境界は少し不自然な形で南に伸びていますが、この町境がかつての「樺戸川」の流路だったみたいです。

なお、新十津川町と浦臼町の境には「樺戸境川」という川が流れていますが、古い地図では「ニナルシュカパト」と描かれていました。ninar-us-kapato で「台地・ついている・樺戸川」あたりかと思われます。

また、永田方正が「月形村を『カバト』と思うは非なり」との註をつけていますが、「樺戸」と言えば月形であるという解釈が広まっていたのは「樺戸集治監」が月形にあったことからも裏付けられるかもしれません。

総富地川(そっち──)

so-puchi??
滝・入口
(?? = 典拠なし、類型あり)
徳富川(とっぷ──)の南支流の名前です。徳富川を河口から遡った場合、最初の支流ということになります。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ソフチ」という名前の川が描かれていました。また「再篙石狩日誌」にも「ソフチ」という名前で記録されています。

永田地名解には次のように記されていました。

Sopchi  ソプチ  ?
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.57 より引用)
伝家の宝刀「?」が久々に炸裂した感じでしょうか。

山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。

総富地川 そふちがわ
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.50 より引用)
まず読み方からして多少の違いがありそうですね。大正時代の陸軍図には「惣富地川」という記入もありました。

ソ・ウㇱ(滝が・ある)とも聞こえるが,滝はない由である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.50 より引用)
「滝は無さそう」とした上で、次のような試案を出されていました。

あるいはソッキ(sotki 寝床。獣や魚が集まる処)の転訛かもしれないが,音だけの話で資料が全く見当たらない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.50 より引用)
なるほど……。ただ、「東西蝦夷山川地理取調図」などに「ソフチ」とあるほか、明治時代の地形図にも「ソㇷ゚チ川」「ペンケソㇷ゚チ川」「パンケソプチ」とあります。どうやら現在総富地川の本流とされている川は「ペンケソプチ川」で、「砂金沢川」と呼ばれている川が「パンケソプチ」だったようです。

sotki が「そっち」や「ソㇷ゚チ」に化けたという説は一考の余地がありますが、古い記録が軒並み「ソフチ」あるいは「ソㇷ゚チ」で統一されているので、そうだとすれば、かなり昔に地名の取り違えがあったと考える必要がありそうです。

改めて so の意味を知里さんの「──小辞典」で確認してみると……

so そ(そー) ①水中のかくれ岩。②滝。③ゆか(床)。④めん(面); 表面一帯。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.125 より引用)
so と言えば「滝」という印象というか、固定観念のようなものがありますが、これを見る限りは so と呼べる範囲?は結構広いようにも思えます。中流部から上流部にかけて「水中のかくれ岩」のある、少し勾配の目立つ川だったのかもしれません。so-puchi で「滝・入口」だったのでは無いでしょうか。

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2020年10月30日金曜日

春の道北・船と車と鉄道で 2016 (103) 「郷土出身者の足跡」

三笠市立博物館の「展示室 1 : 白亜紀の世界と化石」を見終えて外に出てきました。どうやら他にも展示室があるようですが……
ほうほう、どうやら展示室は合計で 5 つあるようですね。

郷土出身者の足跡 1

ということで、「展示室 2 : 郷土出身者の足跡 1」と題された部屋を見てみましょう。
この展示室で取り上げられているのは、どちらもお医者さんのようですね。
展示室には机と書棚が置かれていて、机の上には書籍や文房具が並んでいます。机の上には辞書類が多いようですね。これだけリアルな形で机が保存されるというのも、なかなか名誉なことでは無いでしょうか。
こちらは黒川利雄博士のデスクのようです。幾春別のお生まれで、X 線を用いた胃がんの早期発見に尽力された方のようです。
展示室の別の一角にも机と書棚が並んでいます。
こちらの机には辞書類ではなく、「赤ちゃん百科」や「現代女性百科」「家庭百科大辞典」などの、割と読みやすそうな書籍も並んでいます。
このデスクの主は森山豊博士だそうで、黒川利雄博士の 7 年後に、同じく幾春別に生を受けた方とのこと。母子保健をライフワークにされた方のようです。

郷土出身者の足跡 2

「展示室 2」の向かいには「展示室 3 : 郷土出身者の足跡 2」がありました。
取り上げられているのは「昭和の名舞台女優 岸 輝子」さんと「北海道初の大関 太刀光電右衛門」だそうですが……、詳しく存じ上げず……どうもすいません。

「化石クリーニング体験」開催中

展示室は全て 1F にありますが、2F には「講演室・図書室・研究室」などがあるみたいです。
この日は 2F で「化石クリーニング体験」が催されていたみたいですね。ここでは「化石」が普通にコンテンツとして消費されているようです(なかなか凄いことかと)。

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2020年10月29日木曜日

春の道北・船と車と鉄道で 2016 (102) 「新鉱物・三笠石」

三笠市立博物館の「展示室 1」の一角には、案内用のタブレット端末が設置されていました。今風ですね!
そして、タブレット端末の後ろの壁には、こんな「おわびとお願い」も。案内アプリがクラッシュすることがある、というオチでしょうか……?

三笠市の地質図

色鮮やかな「三笠市の地質図」も展示されていました。
メインどころをクローズアップするとこんな感じです。市街地の部分はオレンジ色の「段丘堆積層」と白色の「沖積層」が多く、これらは「第四紀」のものとのこと。
南北に伸びる水色の部分は「古第三紀」の「幌内層群」で、その北側に広がるライムイエローの部分が同じく「古第三紀」の「石狩層群」なのだとか。

博物館の東に見える緑色の部分が「日陰の沢層」で、その回りに広がる黄緑の部分が「三笠層」とのこと。紫色の部分が「桂沢層および鹿島層」とのことで、これらは全て「白亜紀」の地層のようです。
「三笠市立博物館」のあるあたりは、第四紀の「段丘堆積層」のようですね。

三笠市に分布する地層

三笠市には、約 1 億年前の白亜紀のものから現代のものまで、様々な時代の地層が分布していることが紹介されています。この図の興味深いところは、中生代の「蝦夷層群」(鹿島層・桂沢層・三笠層・日陰の沢層)と新生代の「石狩層群」の間に 2 千 5 百万年ほどの「大きな時間間隙」がある、とされている点でしょうか。
なお、石炭は主に「石狩層群」から産出されるのだそうです。「幌内層群」を下に掘っていけば「石狩層群」に辿り着いたりするのでしょうか……?

鳥瞰図

これは展示室の外だったかもしれませんが、なかなか素敵な鳥瞰図がありました。
三笠市の市街地部分(と桂沢湖)をクローズアップしてみました。博物館のある幾春別からだと、幌内駅のあった鉄道村よりも桂沢湖のほうが近いようですね。

アンケートに答えて化石をゲットしよう!

展示室の外にはアンケートの記入スペースがあるのですが、「アンケートに答えて化石プレゼントに応募しよう!」というのはとても夢のある話で良いですよね。親子連れの人たちはついつい回答してしまうのでは無いでしょうか。

新鉱物・三笠石

展示室の外のオープンスペースには、「新鉱物・三笠石」と題された展示がありました。「御影石」ではなくて「三笠石」なんですね。
台座には「三笠石の発見」「三笠石の性質」と題された解説がつけられていました。
「三笠石の性質」を読みやすいように整形してみました。「今でも年に 30~40 個の新鉱物が発見されている」というのはちょっと驚きですね。
「三笠石の発見」のほうは、「三笠石」が発見されるまでのエピソードが記されています。本文が気になる方は、ぜひ幾春別へ!

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2020年10月28日水曜日

春の道北・船と車と鉄道で 2016 (101) 「三笠市立博物館」

再び道道 116 号に戻って、桂沢湖方面に向かいます。
おやっ、これは……
幾春別からそれほど遠く無いところ(交叉点から 200 m くらい?)に「三笠市立博物館」があったのですね。これは見学するしか無いでしょう!
駐車場には結構な数の車が停まっています。さすがゴールデンウィーク(の初日)ですね。

三笠宮寛仁親王殿下お手植のメタセコイア

道道の擁壁には「ノドサウルス」のレリーフ(と言っていいですよね?)がありました。さて、博物館と関係があるのか、あるいは全く関係ないのか……?
駐車場の脇には、なんと「三笠宮寛仁親王殿下お手植のメタセコイア」が(寛仁親王は昭和天皇の甥に当たります)。宮家も色々とありますが、ここは「三笠市」ですからやはり「三笠宮」じゃないと格好がつかないですよね。

入口はどこに

ということで、博物館と思しき建物の前にやってきましたが……あれっ?
明らかに、何らかの文字が外された跡が。えっ……と思ったのですが、
「三笠市立博物館」の入口はちゃんと別のところにありました。二つあった入口を一つに統合したのでしょうか。

セット料金がお得です

博物館は有料とのこと。「三笠鉄道記念館」とのセット料金も設定されています。
「三笠鉄道記念館」はスルーしてしまったので、博物館のみの入館料(\450-)を支払って中に入ります。最初の展示室は「白亜紀の世界と化石」とのこと。

大型アンモナイトには「へそ」がない!

順路に従って進んでいくと、最初に出迎えてくれるのがこちらの巨大な化石です。しかも一つではなく、ご覧の通りいくつもいくつも並んでいます。
「大型アンモナイトには『へそ』がない!」と題された「化石トリビア」が紹介されていました。アンモナイトの渦巻の中心部は、人の手によって彫られたものも含まれているのだとか。
日本でアンモナイト化石が一番見つかるのは北海道なのだそうです。海外ではペルーやモロッコ、マダガスカル、西ヨーロッパ各地などで多く見られるのだとか。
アンモナイトの中には、ソフトクリームのような形の螺旋巻きのものもあったとのこと。「異常巻きアンモナイト」という呼び方?があるんですね。

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2020年10月27日火曜日

春の道北・船と車と鉄道で 2016 (100) 「幾春別 その2」

幾春別の集落の中に入ってみたのですが、そこから更に左折して山手の方に向かってみることにしました。このあたりは 1970 年代から変わっていないみたいですね。
土手には結構な量の雪が残っていました。ここは南向きなので、本来は雪が遅くまで残る場所ではありません。もしかしたら雪捨て場として使われていたのでしょうか。
カーブの先には、何やら凄そうな建物が健在でした。Google Map には「旧三菱奔別炭鉱立坑」との注釈がついています。地下の坑道から石炭を搬出していたのでしょうか……?

道道 116 号へ

U ターンして、再び幾春別の集落に戻ってきました。この道路は国道に次ぐメインルートだと思われますが、いくつかバス停があるのが印象的です。
桂沢湖に向かう道道 116 号に戻るには、次の十字路を右折です(ちなみに左折すると先程の立坑に行けるみたいです)。
右折すると、130 m ほど先に信号があります。桂沢湖へは左折ですね。

マイナーコンビニの雄!「セラーズ」

おや、交叉点の右手前に見えるこのお店は……!?
なんと、幾春別には SPAR ではなく「セラーズ」がありました!

一般車両進入禁止

セラーズの前の交叉点は、見た所十字路のように思えますが……
向かい側には郵便局があるものの、主に「駅前広場」という扱いのようです。現在はバスターミナルとして使われているようで、「一般車両進入禁止」と出ています。
広場にはバスが停まっていて……
立派なバス待合所もありました。

3・3・1 岩見沢三笠通

そして、道道 116 号「岩見沢三笠線」がその前を横切っているのですが……。
今度は「3・3・1 岩見沢三笠通」と表示されています。「3.4.4 有明通」も見かけましたが、この数字と通りの名前は……謎ですね。

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