2024年4月21日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (1132) 「大苗・フレイベツ川・御札部」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

大苗(おおなえ)

oo-nay?
深い・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
国鉄白糠線の上白糠駅があったあたりから少し西(茶路川の上流側)のあたりの地名で、同名の川も流れています。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ヲウナイ」とあり、『北海道実測切図』(1895) にも「オオナイ」と描かれています。

白糠町の「広報しらぬか」にて連載された「茶路川筋のアイヌ語地名」によると、「オオナイ」は「オオ(深い)・ナイ(沢)」だとあります。

鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) にも次のように記されていました。

 オオ・ナィ(oo-nay 水の深い・川)の意であるが現在は、明渠排水工事によって直線化され、川底もブロックを張りつめて、昔の形を見ることはできない。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.216 より引用)
oo-nay で「深い・川」だと考えられるのですが、鎌田さんはわざわざ「水の深い川」としています。どの辺が「水の深い川」だったのかは明言されていません。

地名において「深い」を意味する語には ooohoooho も同型)と rawne があります。oo は「水嵩のある」と言った意味で、rawne は「深く切り立った」という意味で解釈されます。鎌田さんはこの両者の違いを認識した上で「水の深い」と解釈したようです。

ただ、地形図を見た限りでは、大苗川は河口付近を除けば谷を流れる川で、流域面積も決して広いようには見えません。長雨でも無いと水嵩が上がりそうには思えないのですね。もちろん河口部が深く水を湛えていたと考えることも(理屈の上では)可能ですが、沼があったようにも見えないですし、果たして本当に「水の深い川」だったのか……という疑問が残ります。

oo あるいは oohorawne の代わり?のようになっていると思しきケースは、特に道東エリアにおいて散見されます。この「大苗川」も「深い・川」ですが、水深があるのではなく、深く切り立った谷を流れる川だったのでは……と思えて仕方がありません。

フレイベツ川

hure-pet
赤い・川
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
白糠町大苗の西で茶路川に合流する支流です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「フレヘツ」とあり、『北海道実測切図』(1895) には「フーレペッ」と描かれています。

永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

Hūre pet   フーレ ペッ   赤川
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.323 より引用)
「広報しらぬか」連載の「茶路川筋のアイヌ語地名」によると、この川は「川底の沈殿物によって川が赤く見えた」とのこと。

hure-pet で「赤い・川」と見て良さそうですね。「フレイベツ川」という表記は若干謎ですが、転記時に見間違えたということでしょうか。

御札部(おさっぺ)

o-sat-pe
河口・乾いた・もの(ところ)
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
白糠町大苗の北隣に位置する地名で、「オサッペ川」も流れています(茶路川東支流)。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には何故か西支流として「ヲサツヘ」という川が描かれていますが、『北海道実測切図』(1895) ではほぼ現在の位置に「オサッペ」と「ペナアンオサッペ」が描かれています(「ペナアンオサッペ」は現在の「支流川」のように思えます)。

永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

O sat pe   オ サッ ペ   涸川尻
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.323 より引用)
鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) には次のように記されていました。

この二筋の川は川尻近くに砂利層があって、これまで流れてきた水が伏流水となって、本流に入るのである。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.217-218 より引用)
概ね異論は無いのですが、誰もが o-sat-pet で「河口・乾いた・川」ではなく o-sat-pe で「河口・乾いた・もの(ところ)」としているのが面白いですね。

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