2025年10月12日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (1294) 「シュンベツ川(布辻川支流)・ホロナイ沢川・トロンナイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

シュンベツ川(布辻川支流)

sum-{pus-i}
西・{布辻川}
(旧地図に記載あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
かつて三石郡三石町と静内郡静内町の境界だったところを布辻ぶし川が流れていますが、その西支流です(静内川にも同名の支流があります)。「瞬別しゅんべつ橋」という橋もありますが、当て字のセンスが良いですね。

北海道実測切図』(1895 頃) には「シュムプシ」と描かれていました。


東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「シユンフシ」とあり、「ホロナイ」以下の東支流があるように描かれています。

『東蝦夷日誌』(1863-1867) には次のように記されていました。

小舟にて上る。(五六町)ヲトエウシ〔音江〕(三石人家)過てトイベツ〔遠別〕(左川)、二股ヘテウコヒ、是より東メナシベツ(小川)、またモフシ(此上ホンモフシ、其外小川多し、三石川へ道有)と云。西をシユンブシ(西方)と云。此處迄上る。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編『新版 蝦夷日誌(上)』時事通信社 p.180 より引用)
「シユンブシ(西方)」とありますが、永田地名解 (1891) にも次のように記されていました。

Shum pushi   シュム プㇱ   西ノ破裂川
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.269 より引用)
sum-{pus-i} で「西・{布辻川}」と見て良さそうですね。あるいは sum-un-{pus-i} で「西・にある・{布辻川}」だったかもしれません。

永田地名解や「東西蝦夷──」は「シユンフシ」(西布辻川)と「メナシフシ」(東布辻川)を記録していますが、『東蝦夷日誌』は何故か「メナシフシ」を「メナシベツ」としています。

布辻川流域では「メナシフシ」=「メナシベツ」と認識されていたので、同様に「シユンフシ」も「シユンベツ」と認識されていて、そこから現在の川名になったのかもしれません(単に転訛しただけという可能性もありそうですが……)。

ちょいと余談ですが、「シュンベツ」の西がシヅナイ(静内)アイヌの領分で、「メナシベツ」(=布辻川)の東がミツイシ(三石)アイヌの領分だったとのこと。「シュンベツ」と「メナシベツ」の間は双方が自らのテリトリーであると主張したため、両者の入会地になっていたそうです。この問題は 2006 年に静内町と三石町が合併したことで解決したと言えそうですね(違)。

ホロナイ沢川

poro-nay
大きな・川
(旧地図に記載あり、既存説、類型多数)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
シュンベツ川(布辻川支流)の西支流です。川沿いを静内川合(捫別川流域)に抜ける道が通っていて、峠の向こう側を「ポロナイ川」が流れています(捫別川支流)。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ホロナイ」とあり、『北海道実測切図』(1895 頃) には「ポロナイ」と描かれていました。


『東蝦夷日誌』(1863-1867) には次のように記されていました。

ポロナイ(シツナイ〔靜内〕人家あり)、イラミチヤリ(左川)、其外字多し。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編『新版 蝦夷日誌(上)』時事通信社 p.180 より引用)
とりあえず poro-nay で「大きな・川」だったと見て良さそうですね。シュンベツ川の支流の中ではもっとも大きなものなので、そう呼んだのでしょう。

トロンナイ川

o-ukot-tokom-nay??
河口・交尾する(合流する)・小山・川
(?? = 旧地図に記載あり、独自説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ホロナイ沢川のすぐ北(0.2 km ほど)で東から合流する支流です。地理院地図には川として描かれているものの、川名の記入はありません(この川名は国土数値情報による)。
北海道実測切図』(1895 頃) には川として描かれていませんでした。


さてどうしたものか……という話ですが、『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「シユンフシ」(=シュンベツ川)の支流として「ヲコフトンナイ」という川が描かれていたことに気づきました。最初の「ヲコフ」を無視すれば、「トコンナイ」と「トロンナイ」はそっくり……なのでは、と。

この「ヲコフトコンナイ」ですが、『午手控』(1858) には次のように記されていました。

ヲコフトコンナイ 川口一ツ二川に成る
松浦武四郎・著 秋葉実・翻刻・編『松浦武四郎選集 六』北海道出版企画センター p.270 より引用)
ほう……。河口がひとつで川が二つというと「興部」などに代表される o-ukot が想起されますが、なるほど「ヲコフト」が o-ukot の可能性があるかも……?

となると「コンナイ」をどう解釈するか……という話になります。素直に解釈すると kor-nay(持つ・川)が音韻変化した kon-nay あたりかと思うのですが、kor の前に完動詞が来ることは無さそうな気がします。「コンナイ」ではなく「トコンナイ」と考えて tokom-nay と見るべきかもしれません。

強引な推論ではありますが、「ヲコフトコンナイ」は o-ukot-tokom-nay で「河口・交尾する(合流する)・小山・川」あたりだったのでは無いでしょうか。この場合、「ヲコフトコンナイ」ではなく本来は「ヲトコンナイ」だった可能性も出てきますが……。

なんとなく見落としがあるような気もします。もっと的確な解がありそうな気もするのですが……。

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