2020年11月21日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (782) 「送毛・尻苗」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

送毛(おくりげ)

ukur-kina?
サジオモダカ
ukur-kina?
タチギボウシ
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
石狩市浜益区毘砂別の南、「送毛山道」の起点とも言うべき集落の名前で、同名の川もあります。「東西蝦夷山川地理取調図」には「ヲクリケ」という名前の川が描かれています。

「西蝦夷日誌」には次のように記されていました。

(五丁十間)ヲクリケ〔送毛〕(砂濱)、名義ヲクリキナといへる草有るより號ると。此所少しの濕地あり。ヲクリキナは恐らくは谷地草かと思はる。紫蕚の種にて、日光にてウルイと云、東地には多き物也。新道此所へ出る(鮡番や、かやぐら二)
松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.214 より引用)
あー、あっさり答が出てしまった感が。ukur-kina で「タチギボウシ」という植物を意味する語彙があるんですよね。そして地名では ukur-kinaukur と略されるケースが良くあるのでした。

永田地名解も見ておきましょうか。

Ukuruki Syn Tōkina  ウクルキ 一名 トーキナ  澤瀉(サジオモダカ) 和名サジオモダカ、日光山ノ方言ウルイ、ト云其白莖ヲ食フ和人「オクリケ」ト云フハ訛ナリ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.84 より引用)
どことなく上から目線というか、「○○は非なり」という注釈を付記することが多い永田地名解ですが、今回は穏当に「訛なり」としているのには感心ですね。ukur-kina を「サジオモダカ」としているのは永田地名解の特色のひとつのようで、最近だと北海道のアイヌ語地名 (756) 「ユウナイ川・ウクルメ川・ベサ川」でも似たような例がありました。

ukur-kina-kina が省略されたと考えた場合、「ウクルキ」(ヲクリケ)の「キ」(ケ)はどこから出てきたのか……という点が気になりますが、もしかしたら ki は「茎」なのかもしれませんし、あるいは ke で「ところ」という可能性もあるかもしれません。

明治時代の地形図は「永田地名解インスパイア系」と思しき節があって、ここでも「ウクルキ」あるいは「ウクルキ川」となっていました。ただ、気がつけば「送毛」という名前に変わっていて、松浦武四郎が記録した「ヲクリケ」に近い形になっている(先祖返り?)のは面白いですよね。

尻苗(しりなえ)

sin-nay
山・沢
(典拠あり、類型あり)
石狩市浜益区送毛の南、濃昼(ごきびる)との中間のあたりの地名です。国道 231 号に「尻苗橋」と「尻苗トンネル」があります。

現在は橋とトンネルに名前を残すのみ……と言った感じの「尻苗」ですが、元々は村の名前だったらしく、明治時代の地形図にも「濃晝」や「川下」「柏木」と並ぶ大きさで「尻苗」と描かれています。「ウクルキ」や「ピサンペッ」がカタカナ表記であることを考えると、「尻苗」という漢字表記の歴史の長さも見て取れますね。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「シリナイ」という名前の川が描かれていました。また「西蝦夷日誌」には次のように記されていました。

(十二町廿二間)シリナイ〔尻苗〕(小川)、轉太濱、名義は如何なる日も萍無と云儀のよし。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.214 より引用)
「萍」は「浮草」を意味するとのことですが……ちょっとピンと来ない感じでしょうか。永田地名解には次のように記されていました。

Shiri nai  シリ ナイ  高澤 ○尻苗村
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.84 より引用)
え……と思ったのですが、そうか si-ri-nay で「本当の・高い・川」と考えたのでしょうか。普通は sir-nay で「大地・川」と考えたくなりますが、sir も「山」と捉えることが可能なので、高いと言えないことも無く……。

山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。

尻苗 しりなえ
 大字尻苗村は送毛や濃昼を含む広地であるが,その名のもとになった尻内は濃昼部落のすぐ北の処である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.117 より引用)
明治時代の「北海道地形図」を見た限りでは、濃昼(浜益区濃昼)が尻苗村の南端だったように見えます。濃昼は川の南北で「浜益区濃昼」と「厚田区濃昼」に分かれていますが、大半の人家は川の北側(浜益区濃昼)に偏っているように見えるので、山田さんが「濃昼を含む」としたのも頷けます。

シリ・ナイ(shir-nai),続けて呼べばシンナイは道内処々にあって,言葉は「山の・沢」と読まれる。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.117 より引用)
ふーむ。やはり sin-nay で「山・沢」と考えるのが適切なんでしょうか。現在はセメントの採掘場になっている一角があるのですが、そこに大きな谷があり、それを「山・沢」と呼んだのかもしれません。

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