2025年8月22日金曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1271) 「シンケブシ橋・ソマシナイ橋・ラムシ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

シンケブシ橋

sinkep(-us-i)
エゾヤマハギ(・多くある・もの(川))
(旧地図に記載あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
浦河町向が丘を流れる「熊谷川」に「シンケブシ橋」という橋が存在するとのこと(位置は誤っているかもしれません)。『北海道実測切図』(1895 頃) には現在の「熊谷川」の位置に「シシンケㇷ゚ウㇱュナイ」と描かれています。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「シンケフ」という川が描かれていました。

戊午日誌 (1859-1863) 「牟古辺都誌」には次のように記されていました。

またしばし過て
     シンケブ
左りの方小川。其名義は、胡枝花やまはぎ多く有るよりして号る也。本名はシンケフウシといへるよし也。道よろしき時は此川まゝ上りてイフイえ山こしをなし、其より又ウラカワの川すじえ山越するによろしきなりと。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.440-441 より引用)
「ヤマハギの多いところ」とありますが、知里さんの『植物編』(1976) には次のように記されていました。

§ 183. エゾヤマハギ  Lespedeza bicolor Turcz.
(1) sinkep(sin-kep)「志ンケㇷ゚」[止め串?]莖《長萬部,幌別,穗別,樣似,足寄,名寄
  注 1.──§ 195,(2),注 2,參照。
(知里真志保『知里真志保著作集 別巻 I「分類アイヌ語辞典 植物編」』平凡社 p.107 より引用)
「§ 195,(2)」によると美幌屈斜路足寄では「ホザキシモツケ」も sinkep と呼ばれたとのこと。注によると、sinkep は蓆を止める「止め串」に由来する可能性があるのでは……とあります。

現在の「熊谷川」がかつての「シンケフ」で、sinkep(-us-i) で「エゾヤマハギ(・多くある・もの(川))」だったと見て良さそうです。由緒正しい?川名は失われてしまったものの、橋の名前としてひっそりと生き残っていた……ということになりそうですね。

ソマシナイ橋

suma-us-nay
岩・多くある・川
(旧地図に記載あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
向別生活館」の西で向別川を渡る橋です。『北海道実測切図』(1895 頃) によると、近く(橋の北西あたり)に「シュマウㇱュナイ」という川が存在したとのこと。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にも「シユマウシナイ」と描かれていました。

戊午日誌 (1859-1863) 「牟古辺都誌」にも次のように記されていました。

また屈曲まゝを上りける処
     シユマウシナイ
左りの方小川。此川すじ岩石多く有るよりして号る也。シユマは岩、ウシは多しと云儀。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.441 より引用)
suma-us-nay で「岩・多くある・川」とのこと。この「シュマウㇱナイ」がいつしか「ソマシナイ」になり、河口近くの橋の名前として生き残った……ということのようです。

ラムシ川

ram(-pes)-us-i??
低い(・崖)・ついている・もの(川)
(?? = 旧地図に記載あり、既存説に疑問あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
道道 481 号「上向別浦河停車場線」は「向別中央橋」で向別川を渡り、その 0.6 km ほど北にある「ラムシ橋」で向別川西支流の「ラムシ川」を渡っています。

北海道実測切図』(1895 頃) には「ニタラクㇱュナイ」という川名で描かれているように見えます。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川名が見当たらないのですが、戊午日誌 (1859-1863) 「牟古辺都誌」には次のように記されていました。

またしばし過て
     ラムウシ
左りの方相応の川の由也。其名義は此処に小山有るよしなるが、其麓が崖に成て有るよりして号しものなり。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.441 より引用)
これは……、ram が「低い」だとすると、後に -us がつかないような気がするのですね。何らかの誤謬があるような気がするのですが……。

ram-pes であれば「低い・崖」となるので、戊午日誌の記録とも符合するのですが、これだと「ペ」が「ウ」に化けたことになります。

……あ、そうか。「ラムウシ」は川の名前なので、ram-pes「低い崖」ではなく ram-pes-us-i で「低い・崖・ついている・もの(川)」だったと見るべきですね。何故か ram-pes-us-i-pes が略されて ram-us-i になった……あたりかもしれません。

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