2018年9月9日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (562) 「足寄・パナワンピラパオマナイ川・パンケオイポイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

足寄(あしょろ)

esoro-pet
それに沿って下る・川


えー、道東は足寄郡の郡名そして町名です。かつては日本で最も広い面積の市町村で(厳密には北方領土の留別村が最大)、また町としては現在でも日本最大なのだそうです。松山千春の出身地としても有名ですね。

なんで今頃……とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、単に「忘れていた」のが理由です(汗)。ということで、とりあえず山田秀三さんの「北海道の地名」を見ておきましょうか。

 松浦武四郎郡名建議書は,足寄の名を「土人に尋候ば,大古神が名附し所にて,知らざる由相答申候」と書いた。
 永田地名解は二つの違った解を書いた。本文では「アショロ。湾。安政帳に云,アシヨロは大原の義」とし,国郡名の処では「足寄。元ヱショロペッなれども,アショロペッと云ふ。義同じ。即ち下る川の義」と記した。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.299 より引用)

ちょっと(でもないですが)手を抜いて、孫引きしてしまいました。「蝦夷地同名國名郡名之儀申上候書付」(草風館『アイヌ語地名資料集成』に採録)であれば p.124、「北海道蝦夷語地名解」(国書刊行会)であれば p.23 と p.326 ですね。

「湾」というのは us-oro で「湾・のところ」なので、おそらく「ウショロ」が「アショロ」に転訛したという説なんでしょうね。「大原」は……えー、なんでしょうこれ。「ヱショロペッ」は、esoro-pet で「それに沿って下る・川」と読めます。

それにしても、永田地名解は(山田さんも指摘しているように)本文と郡名のところで全く違う解を記しているのが興味深いですが、これ、本人は気にならなかったのでしょうか(それとも気づいてなかったのでしょうか)。

 北海道駅名の起源は後説を採り,「エショロ・ペッ(沿うて下る・川)から出たもので,釧路方面から阿寒を越えてこの川に沿って十勝または北見に出たためこう名づけられた」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.299 より引用)

孫引き再び……すいません。いや、こうしたほうが収まりが良かったもので。昭和48年版「北海道駅名の起源」であれば、確かに p.145 にこの記載があります。

音だけからなら他にも読めるが,まずは永田氏が伝承を聞いたらしいこの後説の方を採りたい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.299 より引用)

そうですね。以前にも記したような気がしますが、本別が「十勝アイヌ」のテリトリーだったのに対し、足寄(厳密には中足寄のあたり?)は「釧路アイヌ」のテリトリーでした。釧路アイヌが阿寒のあたりからやってきたのだとすると、足寄川を「沿って下る・川」と呼ぶのは実に自然なことに思えます。

パナワンピラパオマナイ川

pana-wa-an-pira-pa-oma-nay
海側・に・ある・崖・頭・そこに入る・川


それでは、「北海道の地名」には記載が無さそうな川の話題に戻りましょう(汗)。「パナワンピラパオマナイ川」は、地理院地図には川として記載されていないレベルの小さな川です。

ありがたいことに、戊午日誌「東部報十勝誌」に記載がありました。

また少し上りて
     ビラハヲマナイ
左りのかたヒラ有。其中に有る故に号る也。小川。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.332 より引用)

ということで、「パナワンピラパオマナイ」は pana-wa-an-pira-pa-oma-nay で「海側・に・ある・崖・頭・そこに入る・川」と読めそうですね。

pana という語彙も時折地名に出てくるもので、有名なところでは「花畔」の語源とされる pana-un-gur-yas-otke にも出てきますね。対義の語彙は pena で、panke(川下の)と penke(川上の)のように使われますが、panapena の場合は、「海側」「山側」というニュアンスが強まる印象があります。

ただ、「海側」「山側」であれば、pis-un(浜に・ある)、kim-un(山に・ある)というそのまんまの表現が多用されます。panapenapis-unkim-un とは違ってより相対的なもの(pana であっても海の近くとは限らない)と考えるべきなんでしょうね。

パンケオイポイ川

panke-o-pipi-o-i
川下の・河口・小石・多くある・もの(川)


パナワンピラパオマナイ川の北隣を流れる川の名前です(利別川の西支流)。さらにその北隣には「ペンケオイポイ川」も流れています。

「オイポイ」ってなんか「ドイモイ」みたいだなぁと思ったのですが、もちろん「オイポイ」はベトナムとは関係なくて……。戊午日誌「東部報十勝誌」には次のように記されていました。

また少し上りて
     バンケヲビフイ
     ベンケヲビフイ
等共に二川とも左りの方小川也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.332 より引用)

ん、と思って昔の地形図を見てみたところ、そこには「パンケオピポイ」の文字が。なるほど、「オピポイ」が「オヒポイ」となり、「ヒ」を旧仮名遣いと勘違いして「オイポイ」になっちゃったということのようですね。

panke-o-pipi-o-i であれば「川下の・河口・小石・多くある・もの(川)」と読めそうですね。アイヌ語では母音の重出を避けるので、「オピピオイ」が「オピポイ」になったと考えられそうです。

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