2018年9月1日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (559) 「ポンケ川・錦川・オンネトー」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ポンケ川

hon-kes(-i)??
腹・しものはずれ(・所)


昔、大洋ホエールズに(ry

コホン。えー、ポンケ川です。足寄町上螺湾あたりを流れる、螺湾川の北支流です。地理院地図にも記載の無いレベルの小河川なので、参考となる情報も殆どありませんが、唯一確認できたのが、かつて螺湾川の北側?に「ポンケシ」という地名があった、という点です。

この「ポンケシ」について、鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」には次のように記されていました。

ポンケシ
 螺湾川は奥深く水源はオンネトーから流出している。この箇所はオンネトーの下流 5.5 キロ付近の緑橋の対岸の地名で、川の名ではない。
 ポン・ケシ・イ(pon-kas-i 小さい・しものはずれ・所)の意である。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.189 より引用)※ 原文ママ

一見、尤もらしいことが書かれているように見えますが、pon-kes-i で「小さい・しものはずれ・所」というのは「何かが足りない」ように思えます。具体的には、kespira-kes だったり nup-kes だったり、名詞の後ろにつくケースが多いように思えるのです。

ですから、pon-nup-kes であれば「小さな・野原・しものはずれ」となり、道内各地で見られる類型に近くなります。ponkes の間の何らかの名詞が略されてしまった……と考えるべきなのでしょうか。

あるいは hon-kes(-i) で「腹・しものはずれ(・所)」だった可能性もあるかもしれません。知里さんの「──小辞典」には hon-kes は「下腹部」である、としています。

地名における「下腹部」とは

地名における「下腹部」とはこれいかに……という話ですが、知里さんの「アイヌ語入門」では「川に対する古いアイヌの考え方」として、次のように記していました。

古い時代のアイヌは,川を人間同様の生物と考えていた。生物だから,それは肉体をもち,たとえば水源を「ペッ・キタィ」(pét-kitay 川の頭) とよび,川の中流を「ペッ・ラントㇺ(pét-rantom 川の胸)とよび,川の曲り角を「しットㇰ」(síttok 肘)とよび,幾重にも屈曲して流れている所を「かンカン」(kánkan 腸) あるいは「よㇱペ」(yóspe 腸),川口を「オ」(o 陰部)とよぶのである。
(知里真志保「アイヌ語入門 復刻─とくに地名研究者のために」北海道出版企画センター p.40-41 より引用)

なるほど、この考え方で行くと、「下腹部」は河口から少し遡ったあたりになるのでしょうか。そして鎌田正信さんが「川の名ではない」と記しているのにも納得が行きます。pet-kitay-pet で「水源川」という名前だったら変ですからね。

「ポンケシ」は何処に

最後にしれっと重大な問題を書いてしまいますと、古い地図などに記録されている「ポンケシ」の位置と、現在の「ポンケ川」の間は約 4.3 km ほど離れています。また、「ポンケシ」は本来は川の名前では無さそうだ、という話もあります。

これについては少々悩んだのですが、やはり、「緑橋」の近くの「ポンケシ」が上螺湾の北を流れる小河川の名前に(誤って)転用された……と考えるしか無いような気がします。いつか真相?がわかれば良いのですが、あまり期待はできないかも……ですね(汗)。

錦川(にしき──)

pon-nup(-pet?)??
小さい・野原(・川)


螺湾川の南支流の名前です。錦川は螺湾川の南側を並ぶように流れています(水量が少ないからか、残念ながら地理院地図には記載がありません)。

螺湾川を遡ると「オンネトー」(湖)にたどり着きますが、錦川を遡ると天然記念物の「オンネトー湯の滝」(滝)にたどり着きます。この「湯の滝」の上部?はかつて天然の露天風呂として使用されていたそうですが、現在は「微生物が酸化マンガンを生成する」という珍しい現象?を保護するために、温泉としては使用されなくなったそうです。

この錦川、古い地図には「ポンニプ」と記されていました。「ニプ」という音から「錦川」という和名をひねり出したのでしょうか。

鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」には、次のように記されていました。

ポンニプ
ポンネップ沢(営林署図)
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.189 より引用)

ふむふむ。

 ポン・ニ・プ・ウㇱ「pon-ni-pu-us-i 小さな・林・倉・ある・所(川)」の意であろうか。知里地名小辞典は「ニプ(ni-pu)森中の川端に立てて冷凍鮭を貯えておく倉」とある。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.189 より引用)

うーん。果たしてこんな山奥に倉を建てることがあったのかな、という疑問が……。もっと単純に pon-nup(-pet?) で「小さい・野原(・川)」とは考えられないでしょうか?

どの辺が pon(小さい)なのか……という話ですが、もしかしたら螺湾川との対比だったのかもしれないな、と思い始めています。

オンネトー

onne-to
大きな・沼


北見市留辺蘂の「温根湯温泉」、根室市の「温根沼」とは異なります。

螺湾川の源流部にある天然の湖の名前です。onne は「老いた」という意味で、地名ではしばしば「大きな」という意味としても使用されます。onne-to で「大きな・沼」であると考えて良いかと思います。

オンネトーから見て、直線距離で約 2 km 南西に小さな沼がありますが、この沼がどうやら「ポントー」(小さな・沼)だったようです。

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