2018年9月15日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (563) 「新田川・太辛川・新斗満川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

新田川(にった──?)

nitat-or-oma-p?
湿地・の中・そこに入る・もの(川)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
陸別町東斗満のあたりから南南東に流れて利別川に注ぐ支流の名前です。読みを間違えていたらすいません。

一見、新田さんの川か、あるいは田んぼを新たに開拓したことに由来するような名前にしか見えないのですが、戊午日誌「東部報十勝誌」には次のように記されていました。

またしばし過て
     ヲタトロマフ
左りの方砂沢なるが故に号る也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.335 より引用)
また、明治の頃の地形図には「ニタトロマプ」と記されていました。なるほど、これだったらすんなりと理解できます。きっと nitat-or-oma-p で「湿地・の中・そこに入る・もの(川)」なのでしょう。

戊午日誌に「ヲタトロマフ」とあるのは、「ニ」を「ヲ」と読み間違えたから……だと思われます。読み間違えたことに気づかずに、そのまま読み解いてしまった……ということでしょうね。

太辛川(ふとから──)

put-kar-{ni-o-tomam}
河口・回す・{ニオトマム川}
(典拠あり、類型あり)
陸別町を流れる利別川の支流の中でも、西支流の「斗満川」は最も規模の大きいもののひとつです(「陸別川」と「勲祢別川」も相当なものですが)。太辛川は陸別町北斗満の北で斗満川に合流する北支流の名前です。

鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」には、次のように記されていました。

プットカラニオトマム
太辛川(地理院・営林署図)
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.202 より引用)
ふむふむ。いかにもアイヌ語由来っぽい雰囲気が出てきましたね。続きを見てみましょう。

 プッ・カㇽ・ニオトマㇺ(put-kar-ni-o-tomam 川口・まわす・ニオトマム川)の意である。この川の下流はう回したところが多く、特に川口付近は、はなはだしく回流してから本流に入っている。地理院図の太辛はプッカルの当て字である。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.202-203 より引用)
なるほどねー……と思わず首肯してしまいそうになりましたが、改めて地図を見てみると、妙なことに気がつきます。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
これなんですが、とても「はなはだしく回流してから本流に入っている」とは言えないような気がするのです。

ただ、もしかしたら現在の姿は河川改修の成果かもしれない……と思って昔の航空写真を眺めてみたところ……なるほど、これは確かに……と納得してしまいました。

あと、古い地形図を見ると、この川の名前として「プットカラエオトマム」と記されていることに気がつきます。もしかして本当は「──ニオトマム」ではなく「──エオトマム」なのかな、と思って少し考えてみましたが、適切な解が想像できませんでした。やはり素直に「──ニオトマム」と考えるべきなのかもしれません。

ということで、「太辛川」は put-kar-{ni-o-tomam} で「河口・回す・{ニオトマム川}」と考えて良さそうです。「で、『ニオトマム川』って何?」と思われるかもしれませんが、えーっと……次行きましょう!(逃げたな

新斗満川(にいとまむ──?)

ni-o-{tomam}
木・多くある・{斗満川}
(典拠あり、類型あり)
陸別町北斗満の西で斗満川に合流している北支流の名前です。斗満川の支流なので「新斗満川」なのか……と思って気にも留めていなかったのですが、まさかの展開が待ち構えていたのでした。

鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」には、次のように記されていました。

ニオトマム
ニオトマム川(地理院・営林署図)
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.203 より引用)
えっ、こんなところで「ニオトマム」の文字を見ることになろうとは!(白々しい

 ニ・オ・トマム(ni-o-tomam 木(流木)が・ごちゃごちゃある・斗満川)の意であろうと思って、下流に入ってみたが、川筋は真っ直ぐで流木がたまるような所は見当たらない。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.203 より引用)
あれ、当てが外れましたね。ただ、続きもありまして……

ニ・オ・トマㇺ(木が・群生している・斗満川)であったのかもしれない。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.203 より引用)
ああなるほど。これも確かにありそうですね。何れにせよ「新斗満川」は ni-o-{tomam} で「木・多くある・{斗満川}」と考えて良さそうです。

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