2025年12月5日金曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1316) 「オシャマニ・奥真牛」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

オシャマニ

o-samaw-ni
河口・横になっている・木
(旧地図に記載あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
新冠古岸と上古岸の間あたりに存在する、新冠町コミュニティバス「メロディー号」若園大富線のバス停です。

道道 209 号「滑若新冠停車場線」には「オシャマニ橋」が存在しますが、この橋はバス停よりもやや北に位置する……とされています(正確なバス停の位置を確認できていないのですが)。


東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ヲシヤマニ」と描かれていますが、地名なのか、それとも川名なのかは明瞭ではありません。

北海道実測切図』(1895 頃) には「ポロオサマウニ」という川が描かれています。ただ現在の「オシャマニ橋」よりも北に位置しています。


また「長間仁」で「おしゃまに」と読ませる三等三角点がバス停の北西にあたる山に存在します(標高 309.5 m)。これは「オシャマニ橋」と「ポロオサマウニ」の中間あたり(どちらかと言えば「ポロオサマウニ」に近い?)に位置するようです。

戊午日誌 (1859-1863) 「毘保久誌」には次のように記されていました。

     ヲシヤマウニ
西岸小川有。其処平地にて下に川原有。樹木は赤秦皮・秦皮たも赤楊はん白楊どろ・柳等也。此辺河流急なり。此名義不解。イシヤマニといふは獺のことなるが、ウニの二字未解也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.171 より引用)
残念ながら「此名義不解」とのこと。一方、永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

O samauni   オ サマウニ   寄木 松浦地圖「ヲシヤマニ」ニ作ル
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.248 より引用)
『新冠町郷土資料館調査報告書 3』(1991) によると「ポロオサマウニ」は「巌橋のかかっている川の付近」で「ポンサマウニ」は「古岸橋のかかっている川の付近」とのこと。前者は現在「草野川」と呼ばれる川の橋で、後者は「青木川」の橋のようです。

また「ポンサマウニ」について、「知里真志保氏は O-samaw-ni(川尻の倒木)と説明しています」とありますが、確かに『アイヌ語入門』(1956) に次のように記されていました。

 O-samawni.オさマゥニ。< o(川尻〔の〕)samaw-ni(倒れ木)。「川尻の倒れ木」。永田氏は o を無視して‘寄木’と訳す(同 248)。samam-ni【サル】或は samaw-ni は「横になっている・木」ということで倒れ木をさし,‘寄木’ではない。
(知里真志保『アイヌ語入門 復刻─とくに地名研究者のために』北海道出版企画センター p.231 より引用)
どうやら samawsamam(横になっている)の変形のようですね。o-samaw-ni で「河口・横になっている・木」と見て良さそうな感じです。もっとも実際の位置については記録によって異同があるので要注意ですが……。

奥真牛(おくまうし)

o-kuma-us-i?
河口・横山・ついている・もの(川)
(? = 旧地図に記載あるが位置に疑問あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
新冠町若園の西に位置する山の頂上付近に「奥真牛」という名前の二等三角点が存在します(標高 314.3 m)。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ヲクマウシ」という川?が描かれていますが、『北海道実測切図』(1895 頃) にはそれらしい川が見当たりません。


ただ、永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

O kuma ushi   オ クマ ウシ   干竿アル處
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.248 より引用)
kuma は確かに「竿」に類した「横棒」を意味するのですが、地名においては「横山」を意味する場合が少なくありません。そもそもの「オクマウシ」という川がどこに存在していたかが明確ではない以上、安易な推測は厳に慎まれるべきなのですが……

ところが、『新冠町郷土資料館調査報告書 3』(1991) に「オクマウシ」は「森永橋のかかっている川の付近を指しています」と書かれていました。2018 年度 全国橋梁マップによると「奥真牛」三角点のほぼ南東に位置する道道 209 号「滑若新冠停車場線」の橋とのこと。

国土数値情報では、「森永橋」の下を流れる川は「小松川」であるように見て取れるのですが、その北隣に川として描かれていない谷があります。この谷は新冠川に注ぐ直前にクランク状に曲がっていて、いかにも kuma っぽい横山が邪魔をしているようにも見えます。

この無名の川?が「オクマウシ」であるかどうかは微妙なところですが、o-kuma-us-i は「河口・横山・ついている・もの(川)」と考えたいところです。

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