2025年12月20日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1323) 「ヌカンライ沢川・ペツビリガイ沢」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ヌカンライ沢川

nokan-nay?
細かい・川
(? = 旧地図に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
新冠ダムのダム湖である「新冠湖」の北を「ヌカンライ沢川」と「プイラル別川」という二つの(新冠川の)支流が流れていて、ヌカンライ沢川とプイラル別川の間に「ヌカンライ岳」が聳えています。頂上付近には「奴寒来ヌカンライ」という三等三角点もあります(標高 1,517.9 m)。

北海道実測切図』(1895 頃) には「ヌカライ子ㇷ゚」という川が描かれていますが、お隣の「プイラルイペッ」と比べると圧倒的に短い川として描かれています(「実測」なのに……)。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ノカンライ子」と描かれているように見えます。


戊午日誌 (1859-1863) 「毘保久誌」には次のように記されていました。

またしばしを上りて
     ヌカンライ子
左りの方小川。其名義はしらず。源はヌカヒラの源と一枕に成るよし也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.184 より引用)
残念ながら「その名義は知らず」とのこと。

永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

Nukara inep   ヌカラ イネㇷ゚   何處モ見エル處
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.247 より引用)
「見る」を意味する nukar という語があるので、おそらく前半は nukar だと思うのですが、inep が謎ですね。ine-p で「四つの・もの」を意味するようですが……。あ、nukar-ine-p で「見る・四つの・もの」なので「四方が良く見える」ということ……?(文法的に適切かどうかは置いといて)

似た地名としては「糠内」や「野花南」などがありますが、いずれも nokan-nay で「細かい・川」を意味するんじゃないかな……と考えています。ただ「ヌカンライ沢川」が「細かい川」と言えるかと言うと……よく見ると細かい支流が結構ありますね(汗)。

もしかして:弟?

ただ、別の可能性も考えてみたいところです(何故)。以前に幌延の「パンケオーカンラオマップ川」を調べた時に気づいたのですが、nokan-ram で「弟」を意味するとのこと。

( 9 ) nokan-ram (-u)〔no-kán-ram ノかンラㇺ〕《ソオヤ》【常】弟。[nokan(小さい)+ram(子?)]。
「弟」を意味する語は akaki などが一般的で、nokan-ram に類する言い回しは宗谷方言や樺太方言などの北方で記録されています。新冠の山中の地名を北方の方言で解釈するのは無理があるような気もしますが、仮に「ヌカンライ沢川」が「ヌカンライ岳」に由来する(山名由来の川名)だとすると、「弟」という解釈は納得感があるんですよね。

では兄はどこに……という話ですが、5.5 km ほど東に「幌尻岳」があるので、「ヌカンライ岳」は「幌尻岳」の弟だったんじゃないか……という想像です。

ペツピリガイ沢

pet-pirka-i?
川・良い・もの(川)
(? = 旧地図に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
新冠川最上流部の支流で、奥新冠ダムの更に奥で新冠川に合流しています。水源はエサオマントッタベツ岳の南で、中札内村と接しています。

北海道実測切図』(1895 頃) にはそれらしい川が描かれているものの、川名の記入はありません。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ホリカヒホ」や「ウエンヒホ」という川が描かれていますが、これらが「ペツピリガイ沢」に該当するのかどうかは不明です。


ほぼ同名の「ベッピリガイ沢川」が静内川支流の「コイカクシュシビチャリ川」の源流部に存在します。「ベッピリガイ沢川」について、山田秀三さんは pet-pirka-i で「川が・良い・もの(川)」ではないかと記していました。

pet-pirka という用例を他に知らないので、ちょっと違和感もあったのですが、sir-pirka で「天気が・いい」を意味するとのこと。なるほど、それであれば pet-pirka-i で「川・良い・もの(川)」という解釈もアリっぽいですね。

ちょっとだけ気になっているのが、「ペツピリガイ沢」と「ベッピリガイ沢川」がどっちも大きな川の源流部に存在するという点です。ついでに言えばどちらも二手に分かれた川の南側なんですよね。

もしかしたら……ですが、pet ではなく pet-e で「川・頭」つまり「水源」だったのかも……と思ったりもします。「水源がいいって何?」と聞かれると「うっ」と答えに詰まるのですが……。

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