2017年7月9日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (453) 「五厘沢・小黒部・伏木戸」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

五厘沢(ごりんざわ)

ko-rin-nay?
向かって・波・沢


江差町と乙部町の町界を「五厘沢川」が流れていて、川の南側が「五厘沢町」の集落です。「五厘沢温泉」(五厘沢川温泉?)という温泉施設もあるみたいですね。

「角川──」(略──)には、次のように記されていました。

 ごりんざわ 五厘沢 <江差町>
檜山地方南部,日本海沿岸,五厘沢川流域。地名の由来は,アイヌ語で海岸から高くなっている沢の意のコリサワによるという。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.571 より引用)

ほう。「サワ」は「沢」だろうとして、問題は「コリ」をアイヌ語で「海岸から高くなっている」と解釈できるか……というところですね。

田村すず子さんの「アイヌ語沙流方言辞典」によると、接頭語としての ko- は次のように解釈できるそうです。

①(物や人を表す名詞句を目的語として)……に/に向かって/に対して、……に協力して、……と一緒に。(人を表す名詞句を目的語として)(その人)の(……を)。②(場所を表す名詞句を目的語として)……に/で。
(田村すず子「アイヌ語沙流方言辞典」草風館 p.314 より引用)

ri は「高い」という意味の動詞なので、この例にはそぐわないような気がしてきました。ただ、まだ続きがありました。

☆参考 取る、もらう、見る、聞くなど意味する動詞に接頭したときは、〈……から〉と訳せる場合もある。{E: towards, opposing, together with, from……}
(田村すず子「アイヌ語沙流方言辞典」草風館 p.314 より引用)

うーん。動詞に接頭する場合があることは理解できましたが、ko-ri- をどう解釈したらいいものか、今ひとつピンと来ません。

「角川──」(略──)を見ていると、「コリサワ」以外にも「コリン沢」という記録が残されていたことに気づきました。

〔近世〕五厘沢 江戸期~明治 2 年の村名。西在江差付村々のうち。集落の成立時期は不明。元禄 13 年「松前島郷帳」に「こりん沢村」,享保 2 年「松前蝦夷記」に「乙部湯本,ごりん沢鷹場」,天明 4 年「松前随商録」に「コリンサワ 直領温泉場」,天明 6 年「蝦夷拾遺」に「五輪沢 直領十軒,十人余」とある。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.571 より引用)

ふーむ。この「こりん沢」という音からは、ko-rir-nay とも考えられそうですね(音韻変化で ko-rin-nay となる筈なので)。逐語訳すると「向かって・波・沢」となるでしょうか。

「波と対峙する沢」というのも、ちょっと詩的で面白いかもしれません。地名解は「面白い」「つまらない」で決めるものではありませんが……(汗)。

小黒部(おぐろっぺ)

o-ku-rok-pe?
そこで・飲む・座る・もの


厚沢部川の北側に位置する地名で、同名の川もあります。厚沢部町役場のすぐ近くに位置しますが、江差町に含まれます。

それなりに名のしれた地名だと勝手に思っていたのですが、意外と情報が乏しく……。「角川──」(略──)には次のように記されていました。

 おぐろっぺ 小黒部 <江差町>
檜山地方南部,渡島(おしま)半島の中央山岳地帯を発して西流する厚沢部(あっさぶ)川下流右岸流域。地名の由来は,アイヌ語で座って水を飲む所という意のオクロㇰペによるとも,川に足を入れるとぬかる所の意のケペルペともされる(地名アイヌ語小辞典)が,原義は不明。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.272 より引用)

むむ、これはまた……。えーと、o-ku-rok-pe で「そこで・飲む・座る・もの」と考えたのですね。これは素直に巧い解だなーと思うのですが、問題はもう一つの keperpe のほうで。確かに知里さんの「──小辞典」には「流れもせず水のよどんでいる所で,川底に足を入れるとブツブツぬかるような所」と言う解が記されています。

ただ、「ケペルペ」が「おぐろっぺ」になったというのは、少々ダイナミックすぎるような気がするのです。元々の地名が「ケペルペ」に近かったことを伺わせる「何か」があるのであれば話は別ですが……。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ヲクロヘ」と記されています。「竹四郎廻浦日記」では既に「小黒部村」と記されているので、割と古くからの地名のように思えます。「ヲクロヘ」または「おぐろっぺ」という音がほぼ原型を留めていると考えると、他にもいくつか解が考えられそうです。

例えば、前述の o-ku-rok-pe も、「河口・仕掛け弓・座る・もの」と考えられたりは……しませんかね?(汗) これは「rok は人以外には使わないんだよー」という話であればアウトなのですが……。

あるいは o-kur-o-pet で「河口・人・多くある・川」とは解釈できないでしょうか。kur を「影」と解釈するのもアリかもしれません。

最後に珍説をひとつ。知里さんの「動物編」によると、「ヤツメウナギ」を意味する okúripe という語彙があるそうです。もっとも道南では nukúripe という形で記録されているようなので、見当違いである確率は高いと思われますが、実際にヤツメウナギが多くいたりしたら面白いですよね。地名解は「面白い」「つまらない」で決めるものではありませんが……(あれ?)。

伏木戸(ふしきど)

pus-putu
破裂する・河口


五厘沢から国道 229 号を南下すると、鰔川と厚沢部川を渡った先で国道 227 号と合流します。さらに国道 227 号を南西に進んで海沿いに出たあたりが「伏木戸町」です。

和名だとしても何の違和感もない地名なのですが、永田地名解には次のように記されていました。

Push putu   プㇱユ プト゚   破口 伏木戸(村)ノ原名「アツサブ」川破裂シテ川口トナルコト屢コレアリ故ニ名クト云フ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.149 より引用)

おおう。ちなみに「屢」で「しばしば」と読むみたいです。pus-putu で「破裂する・河口」と考えて良さそうでしょうか。それにしても「プシュ」ではなく「プㇱユ」と記すあたり、さすが永田っちとしか……。

山田秀三さんの「北海道の地名」にも記載がありました。

厚沢部川の古川は,今でも海浜に沿って,ずっと伏木戸の近くまで残っている。昔は風雨の際に川口が砂で塞がると,今の古川を流れ下り,伏木戸の辺で砂浜を破り,そこで海に注ぐこともあったので,push-putu(プシと破る・川口)と呼ばれ,地名として残ったのであろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.441 より引用)

確かに、厚沢部川の河口部は現在でも酷く湾曲しています。とは言え、さすがに伏木戸町のあたりまで流れが伸びていたというのは俄には信じられないのですが、北からの沿岸流で河口が塞がれたら、南に逃げるしか無かったのでしょうね。

ということで、これもちょっと面白い地名でした。まぁ、地名解は「面白い」「つまらない」で決めるものではありませんが……(ぉぃ)。

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