2012年11月4日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (86) 「納沙布・温根元・トーサムポロ」

 


本日は、納沙布岬周辺の味わい深い?地名の数々をお届けします。



納沙布(のさっぷ)

言わずと知れた北海道最東端の岬の名前です。では、さっそく「角川──」(略──)を見てみましょう。

〔近代〕昭和43年~現在の根室市の町名。もとは根室市大字珸瑶瑁(ごようまい)村の一部,ノサップ・コタンスレート・ヲンネモト。地名は,「蝦夷地名考并里程記」によれば,アイヌ語のノッシャム(則崎の際の意)に由来するとあり,「北海道の地名」では,岬のかたわらの意で,元来は岬でなく,岬のそばにあったコタンの名だったのが,いつのまにか岬の名として使われたと見える。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1133 より引用)

「ノサップ・コタンスレート・ヲンネモト」というのは一体なんなんでしょう。まるでプロレスの技の名前のような……。由来の方は、not-sam で「岬・傍」と見て間違いなさそうです。

山田秀三さんの「北海道の地名」も見ておきましょうか。

 アイヌ語の語尾の子音ムもプ(m,p)も不破裂音で,唇を閉じたままであるためか,よくムがプに訛って残った。稚内の先の岬の名とされた野寒布(のしゃっぷ)と全く同じ形の地名なのであった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.242 より引用)

ふむふむ。素人考えでは not-sam-p で「岬・傍・所」という解釈もアリなのかな、と思わないでも無いのですが、この辺は旧記に従うべきなのでしょうね。



温根元(おんねもと)

納沙布から西に 1.5 km ほど行ったところにある集落で、同名の漁港もあります。onne が「長じている」という意味であることは理解できるのですが、さてさて……。「角川──」()を見てみましょうか。

古くはオン子モイともいった。根室地方南東部,根室半島北東部。納沙布岬西側の珸瑶瑁(ごようまい)海峡・根室湾沿岸。地名はアイヌ語のオンネモイ(大湾の意)に由来するものか(北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.339 より引用)

なるほど。onne-moy で「長じている(大きな)・入江」ということですね。ただ、これだと現実の地形にちょっと合わない気もします。「大きな入江」という表現がしっくりくる地形は、むしろ西隣の「トーサムポロ沼」ですね。全くの想像で話をしてしまうと、もともと「温根元」は「トーサムポロ沼」のあたりの地名で、東側に新たな漁港を開削した際に地名ごと「お引っ越し」したのでは無いでしょうか。




トーサムポロ

トーサムポロ沼は、大粒のあさりが採れることで知られています……が、これはちょっとおかしな地名です。ご存じの通り、アイヌ語で「トー」は「湖沼」を意味するので、to-sam-poro であれば「沼・傍・大きな」となってしまいます。しかしながら、トーサムポロ沼の傍に「大きな沼」はありません。つまり、「トーサムポロ」は沼の傍の「何か」の名前、ということになりますね。

永田地名解には、「沼傍廣キ處」とあり、また註として「古アイヌ此處ニ住シ?ヲ取リ食ヒシト云フ 今人『トサポ』ト云フハ略言ナリ 又『トーサムセプ』トモ云フ同義ナリ」とあります。

to-sam-sep は「沼・傍・広くある」という意味ですから、やはり沼の傍に大きな何かがあった、ということになりそうです。

国土地理院の地形図を見ると、トーサムポロ沼の北東に「トーサムポロ岬」という名前が見えます。この岬はまわりの岬と比べてやや大きい(広い)ようにも見えるので、もともとはこの岬が to-sam-poro-not(沼・傍・大きな・岬)と呼ばれていて、この「トーサムポロ」が沼の「固有名詞」として借用された、といったところでは無いでしょうか(「沼」は単に「トー」と呼ばれることが多く、固有の名前を持たない沼も多かったので)。


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