2013年1月12日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (105) 「浦幌・貴老路・本別」

 

ほぅら、足元を見てごらん……ということで(汗)。

浦幌(うらほろ)

orap-oro?
ヤマシャクヤクの根・所
urar-poro?
もや・多い
uray-poro?
梁・大きい
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
浦幌町は旧・音別町(現・釧路市)の西隣に位置する町で、北端は本別町と白糠町に接しています。浦幌川は白糠町との境界に位置する「釧勝峠」に源を発し、町内を縦に貫いて十勝太のあたりで太平洋に注ぎます。

さて、この「浦幌」の由来なのですが、これまた何やらややこしいことになっているようです。山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

 浦幌川は十勝川東側を南流している長い支流(87 キロ)で,浦幌は川筋の地名。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.289 より引用)
む。現在は「浦幌十勝川」という名前で直接太平洋に注いでいるのですが、もともとは十勝川の支流だったのですね……。そして肝心の地名解ですが……

永田地名解は「オラポロ。川芎多き・処。オラㇷ゚・オロの急言。オラㇷ゚は川芎なり。一説にウララ・ポロにして大霧の義」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.289 より引用)
「川芎」は「センキュウ」と呼ばれ、生薬の材料になるのだそうです。

 知里博士植物篇によればオラㇷ゚(orap)は「やましゃくやく」のことだという。この第一説のほうは「やましゃくやく・の処」の意。第二説のほうは urar-poro「霧が・多い」の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.289 より引用)
といった具合に、永田地名解の時点でまったく異なる二通りの解釈が記されているのですが、

今の行政区画便覧はウライポロ(大なる網代)説で,「網代・大きい」と解したもの。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.289 より引用)
うー、もはや何がなんだか訳がわからなくなってきました。えーと、orap-oro で「ヤマシャクヤクの根・所」か、あるいは urar-poro で「もや・多い」または uray-poro で「梁・大きい」だと言うのですが、個人的な印象では uray-poro は無いかなぁ、と感じます。永田地名解に記された二説はどちらも甲乙付けがたい感じですね……。

貴老路(きろろ)

kir-o-ru?
足・入れる・道
(? = 典拠あり、類型未確認)
浦幌町北部、本別町との境界のあたりの地名です。あの二人組の名前の由来かも知れません。では、「北海道の地名」を見てみましょう。

 浦幌川源流部の地名。ここから山越えすればすぐ本別町市街に出る。昔から通路があってキロル(kiroru 道)と呼ばれた処であろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.290 より引用)
というわけで、貴老路は「道」という意味なのですが、より厳密?には kir-o-ru で「足・入れる・道」となるそうです。ちなみに山を下りた先の本別 IC のあたりには「嫌侶」で「きろろ」と読ませる地名があります。

このあたりの地形はとても変わっていて、浦幌川流域の平野部の端がそのまま崖のようになっていて、100 m ほど下りたところに本別町の市街地があります(文章で説明しづらい……)。つまり、本別から浦幌町北部に抜けるには急な坂を 100 m ほど登らないといけないのですが、登りきったらそこがいきなり平野部になるわけです。

アイヌ語で「峠道」のことを ru-pes-pe あるいは ru-chis と言いますが、厳密には前者は「川に沿ったもの」で、後者は「山の鞍部」なので、本別から浦幌町北部に抜ける「道」を指すには、どちらも不適切のように思えます。そのどちらでもない「人道」があって、それを kir-o-ru と呼んだのかも知れませんね。

本別(ほんべつ)

pon-pet
小さな・川
(典拠あり、類型あり)
ようやく簡単な地名の登場です。pon-pet で「小さな・川」すなわち「支流」という意味ですね。折角なので山田秀三さんの名調子を拝見しましょう。

 本別市街は利別川筋での相当な街。本別町は南は池田町,北は足寄町の間の土地であるが,昔は十勝アイヌの先端部の居地で,足寄の釧路アイヌとの間にしばしば争いがあり,いろいろな伝承が残されている。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.298 より引用)
なるほど……。足寄は釧路アイヌのコタンで、本別は十勝アイヌのコタンだったんですね。十勝アイヌは道内のアイヌの中でも武勇伝が名高いことで知られているので、釧路アイヌとも色々と小競り合いがあったのかも知れません。それが影響しているのでは無いのでしょうが、本別と足寄は合併することなく現在に至っています。町境から足寄の市街地までとても近いにもかかわらず……。

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