2014年8月9日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (201) 「シケレベナイ沢川・パンケヤーラ川・ペイユルシエペ川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

シケレベナイ沢川

南富良野町の南東部を流れる川の名前です。ルウオマンソラプチ川の支流で、すぐ南を JR 根室本線の新狩勝トンネルが通っています。

「シケㇾペ」はキハダの実のことですから、sikerpe-nay だと「キハダの実・川」となりますね。おそらく、元々は sikerpe-us-nay とか、あるいは sikerpe-kar-us-nay と言った名前だったのだろうと思います(前者だと「キハダの実・多くある・川」、後者だと「キハダの実・採る・いつもする・川」と言った意味)。

「シケㇾペ」はちょくちょく地名に出てきます。ということで、何らかの「機能」があったと考えられるのですが、萱野さんの辞典には次のように記されています。

ブドウのような実がなりその実を香辛料として用いる.木の内側の黄色い部分を剥いで乾燥させ粉にしたものを打ち身や挫きをした時水で練って患部に貼ると効き目がある.
(萱野茂「萱野茂のアイヌ語辞典」三省堂 p.263 より引用)

なるほど。インドメタシンのようなものなんでしょうか。

パンケヤーラ川

南富良野町の東部を流れる川の名前です。シーソラプチ川の支流ですね。ちなみにシーソラプチ川とルウオマンソラプチ川は南富良野町の落合駅のあたりで合流して「空知川」となります。

永田方正の「北海道蝦夷語地名解」によると、「パンケ ヤーラ」は「下ノ破レ川」とあります。なるほど、panke-yar で「川下の・破れる」という意味になりますね。

ただ、困ったことに、永田地名解にある「パンケヤーラ」「ペンケヤーラ」は、どうやら現在の「パンケヤーラ川」とは別の川を指している可能性が高いのです。と言うのも、東西蝦夷山川地理取調図には「トナツヘ」(トナシベツ川?)の隣の川として「ハンケヤーラ」が記されているのですね。

該当の位置には、現在「パンケアラヤ川」が流れているので、おそらくこの川を指して「パンケラーヤ」の地名解を記したものと考えられそうです。

というわけで、気を取り直して……。更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

 パンケヤーラ川・ペンケヤーラ川
 シイソラプチ川の左小川。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.123 より引用)

えーと……。落合のあたりを流れている現在の「パンケヤーラ川」の近くには、「ペンケヤーラ川」が見当たらないのですよね(永田地名解や松浦図にある「ペンケヤーラ」は別の川です)。これは一体どうしたことでしょう……。とりあえず続きを見てみましょうか。

古い五万分地図にはペンケユクルベシベ(川上にある鹿の越路)とあるが、それが何故この地名になったか不明ではあるが、
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.123 より引用)

相変わらず一文が長いので、ここでバサッと切ってみました。確かに、明治期の道庁 20 万図には「ペンケユクルペシュペ」と記されていますね。

パンケヤーラペッとは川下にあるとかげ川の意で、現在もとかげが棲息している。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.123 より引用)

うーむ。panke-ara-pet で「川下の・とかげ・川」ですか。「とかげ川」というのはあまり耳にしないのですが、果たしてこれは……。

ということで、何故「ペンケユクルペシュペ」が「パンケヤーラ」に化けたのか、また、そもそも「パンケヤーラ」の意味は何かという、二つの大きな謎が残ったのですが、現段階ではどちらも答が出せそうにありません(汗)。そもそも、「ペンケ──」が「パンケ──」に化けるということ自体が意味不明です。どうしたものでしょうか……。

ペイユルシエペ川

頭を抱えていても仕方がないので、次行ってみましょう。ペイユルシエペ川は国道 39 号線沿いを流れるシーソラプチ川の支流で、パンケヤーラ川のすぐ南側でシーソラプチ川と合流しています。根室本線の旧・狩勝峠に向かう線路はこの川沿いを通っていました。峠道の川と言えそうですね。

では、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

 現在の道河川課編の河川図ではこのパンケユクルペシペは「ペイユルシエベ川」で,ペンケユクルペシペの方は「パンケヤーラ川」になっている。どうしてこの二川だけこうも食いちがったのであろうか。(前の方は意味が分からない。後の方はそれと並ぶペンケが見えなくて何か変である)
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.73 より引用)

むむっ、そうですね……。確かに「ペイユルシエペ」は意味が良くわかりません。カナ表記自体も、地理院地図では「ペイユルシエペ」、「北海道の地名」では「ペイユルシエベ」となっていますが、更科さんの「アイヌ語地名解」では「ペイユルシュペ」となっています。

無理矢理地名解をひねり出す前に、更科さんの「──地名解」を見ておきましょうか。

 ペイユルシュペ川
 シイソラプチ川の左支流。古い五万分図ではパンケユクルペシュペ(川下の鹿の越路)とあるので、ペイユルシュペは誤記かと思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.123 より引用)

これが正解かも知れませんね……。panke-yuk-ru-pes-pe で「川下の・鹿・路・それに沿って下っている・もの」が、誤謬に誤謬を重ねて「ペイユルシエペ」になった……といったところでしょうか(そう解釈するしか無い)。

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