2015年4月25日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (245) 「飛仁臼川・立仁臼川・羅臼」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

飛仁臼川(とびにうす──)

羅臼町の礼文町(紛らわしいな)のあたりを流れている、全長 1.5 km ほどの小河川の名前です。地理院地図では「トビニウス川」とカタカナで表記されているのですが、OpenStreetMap には漢字で表記されていたので、それに従ってみました。

では、早速ですが山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょうか。

羅臼町内。小川であるが,当て字が面白いので記載することにした。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.229 より引用)

んっ、畏れ入ります(笑)。

トペニ・ウㇲ「topeni-us(-i) いたや楓の木・群生する(・もの,川)」。永田地名解は,小楓のみ多しと書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.229 より引用)

tope で「乳」という意味なのですが、tope-ni だと「乳液・木」で、そこから「イタヤカエデ」を指すようになったのだそうです。topeni-us(-i) で「イタヤカエデ・多くある(・ところ)」と考えて良さそうです。

立仁臼川(たちにうす──)

トビニウス川の 600 m ほど北を流れている川の名前です。この川も地理院地図では「タチニウス川」ですが、OpenStreetMap の情報をもとに漢字表記にしてみました。

タチニウス川ですが、東西蝦夷山川地理取調図には「タッニウシ」とありますので、おそらく tat-ni-us(-i) あたりなのでしょうね。tat は「樺皮」という意味なので、「樺の木」を指す場合は tat-ni(樺皮・木)となります。この辺の使い分けは意外としっかりしているようで、知里さんも著書の中で良く強調されていたような記憶があります。

一応おさらいしておきますと、tat-ni-us(-i) で「樺皮・木・多くある(・ところ)」ということになりますね。ちなみに、樺の木の皮は燃料として使われていたようです。

羅臼(らうす)

知床半島の大地名ですが、意外や意外、今まで取り上げていませんでした。ここも大地名の例に漏れず、古くから解釈がいろいろと揺れているようです。

では、まずは「角川──」(略──)から見てみましょう。

地名の由来に関しては,アイヌ語のラウシ(腸が生じるの意)により,沖で猟したアザラシ・トドや山で猟したクマ・キツネ・タヌキを当地で屠殺した,あるいは川で獲れたマス・サケを解体したことに由来する説(蝦夷地名考井里程記・戊午日誌)と, ラウシ(低い所の意)による説(北海道蝦夷語地名解)とがある。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1603 より引用)

ふーむ……。「ラ」なんですが、萱野さんの辞書には「白子」という意味で記されていますね。一方で中川先生の辞書には「魚の腸の中の脂」とあります。また、知里さんの「小辞典」には「魚の肝臓」とあり、解釈にびみょうな揺れがありますが、魚の腸、あるいは腹の中の臓物であるとは言えそうな感じです。ra-us(-i) で「魚の臓物・多くある・ところ」という説ですね。

どちらかと言えば永田地名解の説のほうが「地名っぽい」感じがしますね。というのも、地名では「ラ」は「低いところ」を意味することが多いためです(対義語は rik)。これだと ra-us-i で「低いところ・多くある・ところ」となりますね。少々意味が循環気味にも思えますが、その辺は和訳の問題と考えていただければと。

ちなみに、山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のようにあります。

古い上原熊次郎地名考は「ラウシ。腸の生ずと訳す。ラーとは腸の事。此川の源水沼なれば,鱒鮭多産にして魚の腸川一面になるゆへ此名ある由」と書き,松浦氏知床日誌は「ラウシ。昔し鹿熊等取り,必ずここにて屠りし故に其臓腑骨等有しとの義也」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.228 より引用)

なるほど、前半部分の答え合わせが終わったような感じですね。もちろん続きもありまして……

永田地名解は後志国古宇郡のラウㇱ・ナイの処で「当地のアイヌはラウシはラウネナイ(注:低い処を流れる川)に同じ」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.228 より引用)

ふむふむ。ちなみに rawne-nay は「深い川」という意味なのですが、「深い川」にも実は二種類あるらしく、rawne-nay は「深くえぐれた谷の底を流れている川」なのだそうです。

 この 2 種の「深川」のうち,Ooho-nay〔オおホナィ〕は「水の深い川」の意味であり,Rawne-nay〔らゥネナィ〕の方は「底の深い川」の意味で深くえぐれた谷の底を流れている川をさすのである。
(知里真志保「アイヌ語入門 復刻─とくに地名研究者のために」北海道出版企画センター p.92-93 より引用)

この解をもとに地形図を見てみると、確かに羅臼川はこの辺りでは目をみはるほどの深くえぐれた谷を流れています。なるほど、ra-us-i で「深いところ・多くある・もの(川)」と考えられそうですね。

ただ、更科源蔵さんはこんな風に記していました。

 羅臼(らうす)
 羅臼町役場の所在地。アイヌ語ラ・ウㇱは「低い処」とか「内臓のあるところ」などと云われていたが、この地方では葛の蔓などをラといい、それの多いところの意であるという。ここの山地には葛が自生している。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.282 より引用)

えっ……? 確かに知里さんの「小辞典」にも ra の意味として「③地下部を食用とする草の葉」とありますし、服部四郎さんの「アイヌ語方言辞典」にも、(食用にする)茎として ra という単語が記録されています(旭川方言として)。否定はできないものの、既存の説を葬り去るほどの蓋然性にも乏しい感じがします。さて、どうしたものでしょうね……

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