2022年5月14日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (934) 「那寄川・オムニナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

那寄川(なよろ──)

nay-oro
川・のところ
(典拠あり、類型あり)
網走市東部、藻琴湖と濤沸湖の間を流れる川の名前です。面白いことに、これだけ短い川でしかも大きな湖に挟まれていながら、那寄川自体は海に向かって流れています。

明治時代の地形図を見てみると、藻琴沼の周辺に「濤沸」「藻琴」「娜寄」「新栗履」の文字が並んでいます。いずれも当時の村の名前らしく、那寄川の(僅かな)流域の上には「娜寄」とあります。字が微妙に異なりますが、「娜寄」も「なよろ」と読ませていたようです。

「東西蝦夷山川地理取調図」にも沿岸部の地名(川名?)として「ナヨロ」と描かれていました。また「竹四郎廻浦日記」と戊午日誌「東部安加武留宇智之誌」にも「ナヨロ」とあるほか、永田地名解にも次のように記されていました。

Nai-oro   ナヨロ   小川 娜寄村ト稱ス
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.476 より引用)
どこからどう見ても nay-oro で「川・のところ」っぽいのですが、念のため知里さんの「網走郡内アイヌ語地名解」も見ておきましょうか。

(400) ナヨロ(Nayoro) ナイ・オロ(川・の所)。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『網走郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.311 より引用)
あ、やっぱり……。藻琴湖と濤沸湖の間は台地になっていて、那寄川は台地に切り込みを入れたような感じで流れています。そのため「窪地のところ」に近いニュアンスで「川のところ」と呼ばれた……のでしょうね。

オムニナイ川

o-to-un-nay?
河口・沼・そこに入る・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
濤沸湖の西部に注ぐ川の名前です。地理院地図には川としては描かれていませんが、河口付近に湿地に囲まれた大きな沼が描かれているところです。

明治時代の地形図には「オインナイ」と描かれていました。別の大縮尺の地形図には「オナンナイ」と描かれているのですが、どちらも意味不明な感じがします。

さて困った……ということで知里さんの「網走郡内アイヌ語地名解」を見てみると……

(413) オチンナイ(O-chin-nai) オ(そこで),チン(生皮を張つて乾す),ナイ(沢)。ワッタルンナイの枝川。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『網走郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.311 より引用)
ふむふむ。「オインナイ」と「オナンナイ」はどちらも意味不明だったのですが、「オチンナイ」の誤記ではないか……とのことですね。

ただ、「東西蝦夷山川地理取調図」を見てみると「トンナイ」と言う名前の川(と思われる)が描かれていて、「竹四郎廻浦日記」にも次のように記されていました。

其字西の方 ウヽツルシ、マル(マ)、ヲトンナイ、ヲン子ナイ、ウカルスべ、ホノア子、シヘツ、チヒアニ、ヲチヤヲチヤシヨ、此処川の東岸に当る。
松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 下」北海道出版企画センター p.387-388 より引用)
この「マル」はおそらく「丸万川」のことで、「ヲン子ナイ」は「オンネナイ川」のことだと考えられます。となると現在の「オムニナイ川」に相当するのは「ヲトンナイ」ということになりますね。「東西蝦夷──」では「トンナイ」でしたが、まぁ誤差の範囲でしょう。

最初に記した通り、「オムニナイ川」の河口付近にはそこそこ大きな「沼」があります。そして「トンナイ」あるいは「ヲトンナイ」という記録があるのであれば、o-to-un-nay で「河口・沼・そこに入る・川」と考えるのが自然に思えるのですが……。

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