2022年6月19日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (945) 「飽寒別・奥蘂別川・オオナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

飽寒別(あつかんべつ)

apkas-nay??
歩く・川
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
国道 334 号の「朱円橋」の北、東二線と南一号の交点から 80 m ほど北に位置する四等三角点の名前です。かつての川名に由来する名前と思われますが、設置されたのは 1978 年とのこと。1978 年の時点では「飽寒別」という川名?は現役だったのでしょうか……。

明治時代の地形図には「ウナペッ」の支流として「アッカンペッ」が描かれています。越川神社のあたり(国道 244 号の近く)を流れる無名の川がありますが、これがおそらく「アッカンペッ」だったと思われます。

「東西蝦夷山川地理取調図」にはそれらしき川が描かれていませんが、「午手控」には「アツカンヘツ ヲクシヘツ枝」と記されていました。

「斜里郡内アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 アッカンペッ 語原不明。
知里真志保知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.260 より引用)
うっ、これは痛い……。

「アッカンペッ」という音からは at-kar-pet で「オヒョウニレの樹皮・取る・川」あたりの解釈が想像されますが、これだと「アッカㇽペッ」なんですよね。at-kan-nay であれば「オヒョウニレの樹皮・取る・川」と解釈できますし、あるいは at-kan-ray-pet で「オヒョウニレの樹皮・取る・流れの遅い・川」あたりの可能性もあるかもしれません。

「アッカンペッ」=「アフカシナイ」?

ただ気になるのが、「東西蝦夷山川地理取調図」に「アフカシナイ」という川が描かれている点です。「アッカンペッ」よりも随分と山手に描かれていますが、「ウナヘツ」(海別川?)と「ヲフシヘツ」(奥蘂別川?)の近くに描かれているので、位置認識を誤った可能性も考えられます。

仮に「アッカンペッ」が「アフカシナイ」だったとすると、apkas-nay で「歩く・川」あたりでしょうか。

奥蘂別川(おくしべつ──)

o-kus-pet?
河口・横切る・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
斜里町朱円しゅえんのあたりを流れる川です。現在は直接海に注いでいますが、かつては海別川に合流して東に向きを変えて、斜里町峰浜の西(東六線と東七線の間あたり)で海に注いでいました。

元々は海別川の支流という扱いでしたが、海別川よりも規模が大きく、また河口部の流路改修もあってか、現在は奥蘂別川が本流で海別川が支流という扱いのようです。

明治時代の地形図には「ウナペッ」の支流として「オクシュペッ」が描かれていました。「東西蝦夷山川地理取調図」には「ヲフシヘツ」と描かれていますが、実際よりも随分と山奥に描かれています。

「斜里郡内アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 オクシュンペッ 奥蘂別川。「オ・クㇱ・ウン・ペッ」(o-kus-un-pet 川向うにある川)。一番浜側にサクㇱペッがあり,その奥にマクㇱペッがあり,更にその川の彼方にこの川が流れていたのでそう名づけた。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.260 より引用)
むむ……。尤もらしい解に思えますが、松浦武四郎の記録では「ヲ(ク)シヘツ」で、明治時代の地形図でも「オクシュペッ」でした。現在の川名も「おくしべつ──」で、いずれも -un が含まれていないのですね。

改めて「斜里郡内アイヌ語地名解」を見てみると、「オクシュンペッ」の前にこれらの川が並んでいました。

 サクㇱペッ(右支流)「サ・クㇱ・ペッ」(sa-kus-pet 浜側を・通つている・川)。
 マックㇱペッ(左支流)「マㇰ・クㇱ・ペッ」(mak-kus-pet 奥を・通る・川)。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.260 より引用)※ 原文ママ
「奥蘂別川」ですが、o-kus-un-pet ではなく素直に o-kus-pet と考えて、「河口・横切る・川」と解釈できないでしょうか(最近 kus を「横切る」と考えるのが癖になりつつありますが)。現在は浜堤を真っ直ぐ突っ切って海に出ていますが、本来は東に向きを変えてから海に出ていたので、そのことを指して河口が「横切る」(あるいは「横断する?」)川と呼んだのではないかな、と思われるのですが……。

オオナイ川

oo-nay?
(水かさが)深い・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
奥蘂別川の最も上流部で合流する支流です。「東西蝦夷山川地理取調図」や古い地形図にはそれらしい川名が見当たりませんが、「斜里郡内アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 オオナイ(マクㇱペッ枝川)「オオ・ナイ」(oo-nay 深い・川)。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.261 より引用)
「マクㇱペッ枝川」とありますが、これは「オクㇱペッ枝川」の間違いでしょうか。ウナベツスキー場の北東に「マクシベツ川」という川があるのですが、この川には支流らしい支流が見当たりません。

oo- というのは少々耳慣れない感がありますが、「地名アイヌ語小辞典」には次のように記されていました。

oo オお 【H 北】《完》深い(深くある);深くなる。(同→oho:対→hak)
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.78 より引用)
ああ、ooho と同じ意味なんですね。地名で頻出する「深い」を意味する語は oohorawne があって、前者は「水かさが深い」、後者は「深く切り立った地形」を意味するとされます。

奥蘂別川の支流の「オオナイ川」は海別岳の南麓を深く刻むように流れています。どう考えても ooho ではなく rawne のほうが適切に思えるのですが、「北海道地名誌」を見てみると……

 オオナイ川 奥蘂別川上流の支流。水の深い川の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.456 より引用)
はっきりと、言い逃れできないレベルで「水の深い川」と書いてありますね……。大きな間違いが含まれている予感がしてならないですが、他に解釈の余地も無く……。今日のところは oo-nay で「(水かさが)深い・川」とするしか無さそうです。

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