2012年12月30日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (102) 「庶路・刺牛・白糠」

 


今年も残すところあと(ry



庶路(しょろ)

白糠町東部の地名です。確かにアイヌ語っぽい地名ではありますが、意味がわからないですね。ということで、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

 白糠町東部の地名,川名。昔はショロロ,ソロロと呼ばれた処であった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.281 より引用)

どこかの軍曹とか、シェロ洋介とかを思い出しますが……(違)。続きます。

 上原熊次郎地名考は「夷語シヨロロとは順風と訳す。此川格別屈曲もなく川風凉風なる故地名になすといふ」と書いたが,シヨロロという言葉を聞いたことがないので困った。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.281 より引用)

いや、私も「シヨロロ」なんて単語は知らないなぁ……と思ったのですが、山田秀三さんもご存じないのであれば、私ごときが知らなくても当然でしょう。

 永田地名解は「ショロロ←sho-ri-oro(瀑布高き処)。大雨の時瀑川飛ぶ」と書いたが,その ri の入れ方が何か不自然な感じである。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.281 より引用)

んー。ri の入り方が不自然だとのことですが、ri-so-oro となるのが普通なんでしょうか。続きます。

北海道駅名の起源は前のころは永田説で書かれたが,昭和 22 年版から「ショ・オロ(滝の・処)」と訳して来た。源流の方に滝があるそうで,語形もこれなら自然であるが,ロが一つ略されている点が気にかかる。言葉くせで意味のないロがついたとでも解すべきか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.281 より引用)

なるほど。so-oro で「滝・の所」と解釈するのが自然なようですね。それにしても、上原熊次郎説は聞き書きなのでしょうが、一体どこからこのような解釈が出てきたのかが気になります。

刺牛(さしうし)

庶路と白糠の間の地名です。馬刺しもいいけど牛刺しもいいですね……。こちらも「北海道の地名」から。

サㇱウシ(sash-ush-i 昆布・群生する・処)の意であろう。同行の運転手は,海流の関係かこのごろは余り育たなくなったが,昆布がよく流れて来ます。それを拾って暮らしていた人もいました,と語った。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.281 より引用)

ふむふむ。sas-us-i で「昆布・多くある・所」という意味ですね。これだと「さすぅし」となるのですが、どうやら元々は「刺牛」で「さすうし」と読ませていたようですね。念のため「角川──」(略──)も見ておきましょうか。

古くはシヤクシウシ・サキシユシ・サクシヽ・サスウシなどといった。釧路地方西部,シラリカップ川とオンネチヨップ川との間の太平洋沿岸。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.592 より引用)

んぁ? 確かに「サスウシ」であれば sas-us-i で良さそうですが、「シヤクシウシ」と sas-us-i はちょいと違いが大きすぎますね。札幌には「シャクㇱコトニ川」がありますが、それと同じように sa-kus-i-usi で「浜・通行する・もの・多くある」という解釈もできそうな気がします(-i-us-i はちょっと変かも知れませんが)。このあたりは地形図でもわかる通り、山と海の間に砂浜が広がっているので、東西を行き交うには砂浜を往来するしか無かったと考えられます。

これが sa-kus-usi となり、やがて ku が落ちて原義が忘れ去られ……というのはちょっと強引すぎますかね。「北海道の地名」に戻りましょうか。

昆布は道の西部では日本語と共通なコンブ(どっちがもとか分からない)であるが,道の北部,東部ではサㇱと呼ぶのだった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.281 より引用)

これはその通りなのですが、その割には「昆布森」や「昆布盛」があったりするのでびみょうです。ということもあるので、sas-us-i は *もしかしたら* 後から出来た話かも……と思ったりもします。



白糠(しらぬか)

これまたちょいと論争になりそうな地名が出てきました。ただ、白糠の地名解にまつわる話は割と有名なので、なるべく短めに……。まずは「北海道の地名」から。

 上原熊次郎地名考は「シラヌカ。夷語シラリカなり。シラリ・イカの略語にて則シラリとは潮の事,イカとは越すと申事にて,満汐川へ入る故此名あり。シラリカといふ川は会所より左の方一丁程隔てあるなり」と書いた。松浦氏東蝦夷日誌はこの解を引きついでいる。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.281 より引用)

sirar-ika で「岩・越える」という意味になりますね。新十津川のあたりに「尾白利加川」という川があったのをご記憶でしょうか。オシラリカは o-sirar-ika だったと考えられるので、非常に近い地名ということになりますね。

続きを見てみましょう。

 永田地名解の本文はシラリカㇷ゚(潮・溢る・処)で同じ解だが,語尾に -p(処)がついているのは土地の音を聞いたからだろう。昔からあった音らしい。同書巻頭の国郡の処では「当地のアイヌはシラルカウなりと云ふ。シラルカウ shirar'ukau。直訳すれば岩石縫合の義。岬端の大岩に名く」と書いた。岩石重畳の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.281 より引用)

ふむふむ。sirar-ukaw で「岩・重なり合う」ですか。確かに「シラリカㇷ゚」より「シラルカウ」のほうが「シラヌカ」に近いですね。

 シララは,古くから,ついこの間まで「潮」とも訳されてきたのだが,知里博士は,この語にそんな意味はない,ただ「岩」のことである。シラリカ shirar-ka は「(潮が・)岩礁に・溢れる」という意味で,それから潮と誤った解がされるようになったのだと解明された(同氏小辞典参照)。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.282 より引用)

そうですね。sirar ではなく、むしろ sirar-ka に「潮」という意味を見いだすのが適切なようです。

 この辺一帯はずっと砂浜続きである。その中に岩礁があったのでこの名がついたのであろう。語義は正確にはシラリカㇷ゚「shirar-ika-p (潮が)岩を・越える・処」のような形で,その語尾の -p が略されて呼びならわされたのだろうか。シララオイカは,それに o-(そこで)という補助語をつけた形で同じ意味。シラルカウは語尾の -p と u が変わった程度の同じ音。それで読めばウカウ(u-ka-u 互いに・上に・ある。重なりあう)となるので,岬の先端部の大岩だとも考えられたものらしい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.282 より引用)

うぉー、これは見事としか言いようが無いですね。似て非なる「白糠」の語源をひとつにまとめ上げる統一理論が出てきました!

アイヌ時代でも,人により時代により,この程度の考え方の差はよくあったのだった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.282 より引用)

全くごもっともです。とりあえず sirar-ka で「岩・上(岸)」と解するのを基本形として、他にも幾通りか解釈できるよ、としておきましょう。

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