2012年12月8日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (95) 「去来牛・知方学・老者舞」

 

みんな大好き「釧路町のアイヌ語地名」第 2 弾です。

去来牛(さるきうし)

sarki-us-i
芦・多くある・所
(典拠あり、類型あり)
尻羽岬の西、太平洋に面した集落の地名です。このあたりは断崖絶壁の地が多く、陸から海に出ることができる所にはもれなく集落がある感じなのですが、去来牛もその一つです。

山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のようにあります。

去来牛は岬から約 2 キロ半の処。東蝦夷日誌は「サリキウシ。芦荻有る沢と云儀」と書いた。現代流に書けば,サㇽキ・ウシ(sarki-ush-i 芦・群生する・処,沢)の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.260 より引用)
はい。sarki-us-i で「芦・多くある・所」と見るべきなのでしょうね。地図で見た感じでは、芦が群生しそうな場所があるのかな? という疑問もあったりしますが……。

知方学(ちっぽまない)

chip-oma-nay?
舟・入る・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
知方学は去来牛の西隣の集落で、その名にふさわしく小学校があります。

山田秀三さんの「北海道の地名」が面白いので、じっくりと見てみましょう。

この辺から西の地名は誠に読みにくいものが多い。街道は高台の上を東西に通じていて,部落に降る坂道の入口に標識が立ててあるが,初めての人だったらどれもそれだけでは読めないであろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.260 より引用)
そうですよねぇ(笑)。このあたりの地名が楽しめる所以です。

永田地名解は「チㇷ゚・オマ・ナイ(舟川)。往時舟流れ寄りし処故に名くと云ふ」と書いた。それを続けて呼んでチッポマナイとなったのであろう。なお松浦氏東蝦夷日誌は「チホヲマナイ。本名チエフヲマナイなるよし」と書いた。その音だとチェㇷ゚・オマ・ナイ(魚・いる・沢)と聞こえる。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.260 より引用)
知里真志保さんの著作に「和人は舟を食う」という題名のものがあります。これは我々が chipchep を混同する様を知里流のユーモアで題したものなのですが、「知方学」にまさしくその実例があったということになりますね。

肝心の地名解について、松浦説の再検討はそれほど熱心になされていないようなのが気がかりではあるのですが、とりあえず永田説の chip-oma-nay で「舟・入る・川」で良いのかなぁ、と思います。このあたりは入り江らしい入り江が無い地形で、舟を片付けるには手頃な川に置いておくしか無いと思われるのですが、ちょうど良さそうな川があるので……。

老者舞(おしゃまっぽ、おしゃまっぷ)

o-e-samam-pet??
河口・そこで・横になっている・川
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
さぁ、ちょっと波乱を呼びそうな地名が出てきました。まずは山田秀三さんの「北海道の地名」をどうぞ。

東蝦夷日誌はヲエチヤンマフ,明治 30 年 5 万分図はオエサマㇷ゚と書いたが,解の記録は見ない。形だけだとオ・イチャン・オマ・ㇷ゚「川尻に・鮭鱒産卵場・ある・もの(川)」とも聞こえるが,訛った形らしいので,うっかり解がつけられない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.260 より引用)
ほぼ全文引用しちゃいました。申し訳ありません。山田さんの解釈は、少々自信が無さそうなものなのですが、一方で更科源蔵さんは、次のような解を披瀝されています。

 釧路町沿岸。思わず吹き出したくなる当て字である。近くの小川の名で、アイヌ語オ・サマッキ・プで川尻の横になっている川の意。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.268 より引用)
「サマッキ」という語彙を知里さんの「──小辞典」で見てみると……

samatki サまッキ ((完))横たわっている; 横臥する; 横につき出ている。[<sama-at-ki; sama(横になる)at(ずうっとそうしている)ki(する,強意);‘横になり続けることをする’の意]
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.116 より引用)
とあります。これを見ると、o-sama-at-ki-p ではなく、o-sama-at-p という解釈も成り立ちそうな気もしてきます。

一方で、知里さんの「──小辞典」には、samam-pe という語彙も記されています。これは「鰈(カレイ)」を意味する単語なのですが、もともとは「横になっている・もの」という意味なのだそうです(確かにカレイは横になってますよね)。
実際の老者舞の地形を見てみると、古い時代には河口のあたりで横流していた可能性が見て取れます(現在は、まっすぐ海に注ぐように河川改修済みのようです)。そう考えると o-samam-pe で「河口・横になっている・もの」あるいは o-samam-pet で「河口・横になっている・川」という解釈も成り立ちそうな感じです。ただ、これだと山田さんが紹介した「ヲエチヤンマフ」あるいは「オエサマㇷ゚」から、少し離れてしまうようにも感じます。

o-e-samam-pet で「河口・そこで・横になっている・川」というのは、アリでしょうか……?

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