2015年7月25日土曜日

次の投稿 › ‹  前の投稿

アイヌ語地名の傾向と対策 (269) 「シラルトロ沼・シラルトロエトロ川・コッタロ」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

シラルトロ沼

塘路湖の北隣にある沼の名前です。戊午日誌には「シラリウトルトウ」とありますから、これは sirar-utur-to と考えて良さそうでしょうか。これだと「岩・間・沼」という意味となります。一見すっきりした解釈のように見えるのですが、ちょっとした疑問も残ります。

というわけで、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

松浦図はシラリウトルで,明らかにシラル(shirar 岩)のついた名であるが,行って見ると葦ばかりの湿原の沼である。土地の古老に聞くと湖口に近い西南端と,北の方の奥に僅かだがバラス(砂利)の処があるが,との話。どうもシラル(岩)という感じでない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.271 より引用)

えー、こういうことでして……(手を抜いた!)。そもそも「沼地」に「岩」は相容れない場合が多いのですが、「岩の間の沼」と言う割にはそれらしい岩が見当たらない、ということのようです。

永田地名解は「シラルトロ shirar'utoro 岩磯の間(を流る小川)」と書かれた。shirar-utur(岩の・間)のことであろうが,この沼に入っている川の名からでも出た湖名だったろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.271 より引用)

あっ、これは確かにありそうな話ですね。アイヌの流儀では池沼にユニークな名前をつけることはあまり無く、複数の池沼を区別する場合は poro (大)や pon (小)などの形容詞を付加するケースが多かったのでした。ただ、「シラルトロ沼」の場合は sirar-utur という割と具体的な形容詞がつけられているため、その理由は流入河川に求められるのではないか……という仮説です。

ただ、シラルトロ沼に流入する河川と言えば、まずは「シラルトロエトロ川」となるのですが、このネーミングを見る限り、シラルトロ沼に由来する川名のようにも思われるので、これだと循環参照っぽいですよね。

というわけで、「岩の間の沼」である「シラルトロ沼」ですが、その「岩」が何処にあるのかは不明、ということになりそうです。

シラルトロエトロ川

というわけで、由来が謎な「シラルトロ沼」に注ぐ最大の河川の名前が「シラルトロエトロ川」です。「シラルトロエトロ」を素直に解釈すると {sirar-utur}-etu-or で「シラルトロ沼・岬・のところ」とでもなりそうですが、「シラルトロエトコ」(あるいは「シラルトロエトク」)の誤記だったと考えたほうがより自然に解釈できます。{sirar-utur}-etok で「シラルトロ沼・沼の奥」となりますね。

ただ、松浦武四郎の時代には「シラルトロエトロ」とは呼ばれていなかったようで、「戊午日誌」には「トマチトイ」、「東西蝦夷山川地理取調図」には「トウキタイ」と記されています。

戊午日誌を解読した秋葉実さんの注によると「トマチトイ」の「マ」と「チ」には傍点がつけられているので、あるいは「マ」が「ウ」の、そして「チ」が「キ」の誤記だった可能性もあるのかも知れません。「トウキタイ」だとすると to-kitay で「沼・奥」と解釈できますね。

「シラルトロエトロ川」は、人によって to-kitay と呼ばれたり sirar-utur-etok と呼ばれたりした、ということだったのでしょうか。だとすれば、割と近年まで、単なる記号としての地名ではなくて、意味を持つ地名として認識されていたとも言えそうですね。

コッタロ川

標茶町西部の地名で、同名の川もあります。東西蝦夷山川地理取調図には「クッタヲロ」と記録されていますね。また、永田地名解にも記載があるのですが……

Kottaro  コッタロ  ?
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.340 より引用)

ありがとうございました。では、続いて「戊午日誌」を見てみましょう。

また同じ様成処十丁計も過て右の方
     コツタロ
と云小川有。其上に少し水の涌処有る也。メンカクシの申には此処名、コンタル 小樽の訛りし也と云。またトウロのケンルカウスの申にはコツタロ也と。コツは川の形也、其上に小さき樽程の水涌壷有りと云儀と云。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.481 より引用)

あー、なんとなくわかってきたような気がします。これは kot-ta-hor で「窪み・汲む・水」と解釈したのでしょうか。ただ、どことなく文法的におかしいような感じもします。

純粋に「コッタロ」あるいは「クッタヲロ」という音から考えると、kut-taor で「帯状に岩が見える崖・川岸の高所」という解釈も考えられそうな感じがします。コッタロ川が釧路川に合流する 1 km ほど手前で標高 7~80 m ほどの山が湿原にせり出しているのですが、このことを指していると考えられなくは無いかもしれないのかなぁ、などと……(かなり弱気)。

前の記事次の記事

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International

0 件のコメント:

最近の記事

    スポンサーリンク