2015年7月4日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (263) 「天寧・遠矢・鳥通」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

天寧(てんねる)

teyne-ru
濡れている・道
(典拠あり、類型あり)
東釧路駅から見て西側にあたる、釧路川沿いにかつて「天寧駅」という貨物駅がありました。この駅は「てんねい──」と読んだのですが、東釧路駅から釧網本線沿いに北に進んだところにある「天寧」は、字は同じでも「てんねる」と読みます。陸上自衛隊釧路駐屯地の近くの地名です。「東西蝦夷山川地理取調図」には「テイ子ル」と記載がありますね。

山田秀三さんの「北海道の地名」に記載がありました。

天寧 てんねる
 旧釧路川を上り釧路町に入った辺の川東の地名。テイネ・ル(teine-ru 湿れている・道)の意だったという。湿原中の通路があって呼ばれた名であろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.268 より引用)
なるほど……。「寧」を「ねる」と読ませるあたりで身構えてしまったのですが、意味するところは意外と単純な地名でしたね。teyne-ru で「濡れている・道」と解釈して良さそうです。

遠矢(とおや)

to-ya
沼・岸
(典拠あり、類型あり)
JR 釧網本線は東釧路駅が起点(あ、終点か)なのですが、東釧路の次の駅が「遠矢駅」です。つまり、東釧路の隣の駅ということになるのですが、東釧路からは 7.4 km も離れています。このあたりは人跡未踏の地という感じでも無いのですが、ちょっと意外な感じがしますね。

では、今回は「北海道駅名の起源」を見てみましょう。

  遠 矢(とおや)
所在地 (釧路国)釧路郡釧路村
開 駅 昭和2年9月15日 (客)
起 源 アイヌ語の「ト・ヤ」(沼の岸) から出たものである。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.160 より引用)
うわー、こりゃまたストレートな……。続いて山田秀三さんの「北海道の地名」もどうぞ。

低湿原野の中に丘陵が突き出していて上にチャシがある。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.269 より引用)
おっ、そうだったのですね。

トー・ヤ(to-ya 沼の・岸)と読まれるが,現在は沼が見えない。古い時代に湿原の処に沼があったのであろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.269 より引用)
ふむふむ。to-ya で「沼・岸」であると見て間違い無さそうな感じですね。折角なので更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」も見ておきましょう。

 遠矢(とおや)
 釧網線の駅名。アイヌ語のトーヤは沼岸の意で、かつてこの付近の湿原は沼であり、その沼べりに名付けた地名である。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.252 より引用)
山田さんの疑問に更科さんが答えたような形になっていますね。図らずも……ではなく、そうなるように仕組んで引用したのですけどね(汗)。遠矢駅と新釧路川の間は、現在は畑になっていますが、もともとは釧路湿原が遠矢駅のすぐ近くまで広がっていたのでしょうね。

鳥通(とりとおし)

turi-tuye-us-i
舟の棹・切る・いつもする・ところ
(典拠あり、類型あり)
遠矢駅のすぐ北側の地名です。「鳥通」は国道沿いの土地の地名ですが、国道から離れた JR 沿いにも「トリトウシ」という地名があります。もともとは一つの地名だったと思うのですが、どうしてこうなってしまったのでしょうね。

この「鳥通」ですが、「戊午日誌」には次のように記されています。

またしばしにて左り
     トリトエウシ
小川有。丸小屋有。此処までトウロより五里。又是よりトコタンえ五里と聞り。其地名の儀は昔し早切(さぎり)を出し土人等家を立しと云儀のよし也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.507-508 より引用)
また、北海道蝦夷語地名解には次のようにあります

Turi tuye ushi  ト゚リ ト゚イェ ウㇱ  榱ヲ斫ル處
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.336 より引用)
ちなみに「榱」は「たるき」と読むのだそうですが、「鳥通」の意味にたどり着く前に「榱ヲ斫ル處」の意味を理解するだけで時間がかかりそうな勢いですね(汗)。

山田秀三さんの「北海道の地名」にも記載がありました。最初から「北海道の地名」を見ておけばよかったんじゃ? という説もありますが……(汗)。

トリトイウシ
鳥通 とりとうし
 松浦図はイワホキ(岩保木)の北側にトリトイウシと記し,永田地名解は「トゥリ・トゥイェ・ウシ」と書いた。turi-tuye-ush-i(舟の棹を・切る・いつもする・処)の意。舟行のよく行われた処で,棹に都合のいい木が生えていた処が地名となったものらしい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.269 より引用)
あー、実にわかりやすいですね(汗)。turi という単語は初めて目にしたような気もしますが、「地名アイヌ語小辞典」にも「舟をあやつる棒」と記載があるくらいですので、地名では割と良く使われる単語だったのかも知れません。turi-tuye-us-i で「舟の棹・切る・いつもする・ところ」と理解して良さそうですね。

なお、「トリトウシ」と「鳥通」の関係については、山田秀三さんは次のように考えていたようでした。

位置は少し南になっているが,国道391号線沿いの鳥通の部落の名はこれから来たのであろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.269-270 より引用)
ふむふむ。もともとは「トリトウシ」があって、そこから「鳥通」が派生したのではないか、という見方ですね。東西蝦夷山川地理取調図の記載に間違いが無いのであれば、そう断定してもいいかも知れませんね。

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