2015年7月5日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (264) 「岩保木・達古武・チリシンネ沢川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

岩保木(いわぽっき)

iwa-poki
霊山・その下
(典拠あり、類型あり)
JR 釧網本線は東釧路から遠矢まで国道 391 号と並走していましたが、遠矢から先は釧路川沿いにルートを変えます(国道は直接達古武に向かいます)。

釧網本線を釧路湿原に押し出すような形で張り出しているのが標高 119 m の「岩保木山」で、「いわぼき──」あるいは「いわぽっき──」と読むようです。近くに新釧路川と旧釧路川を隔てる「岩保木水門」もありますね。

この「岩保木」も昔からある地名で、「戊午日誌」には「イワポキ」と記録されています。また、永田地名解にも次のようにあります。

Iwa poki  イワ ポキ  山下
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.336 より引用)
だいたい意味がつかめて来ましたね。iwa-poki で「霊山・その下」と読み解けそうです。pokipok の所属形ですから、「ザ・霊山の下」と解釈すればそれっぽい感じになりそうでしょうか。

「山の麓」を意味する地名が山名になっている矛盾については、山田秀三さんは次のように記しています。

たぶん和人が山名を呼ぶのに,山下の地名を採って岩保木山としたのであろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.269 より引用)
まぁ、そんなところでしょうね。岩保木山は標高 119 m のそれほど高くない山ですが、湿原のはずれに聳える山だけに、かなり堂々と見えるそうですね。

達古武(たっこぶ)

tapkop
小さな山
(典拠あり、類型多数)
釧路町北部で標茶町との境にほど近いところにある地名で、同名の湖もあります。「達古武」と書いて「たっこぶ」あるいは「たつこぶ」と読むようですが、現在はどちらが主流なのでしょうか。

この地名も古くからあるもので、「戊午日誌」には「タツコプ」、永田地名解には「タㇷ゚コㇷ゚」と記されています。tapkop で「小さな山」と考えられます。この tapkop ですが、知里さんの「──小辞典」には、次のように意味が記されています。

tapkop, -i たㇷ゚コㇷ゚ ①離れてぽつんと立っている円山;孤山;孤峰; ② 尾根の先にたんこぶのように高まっている所。── tapkop は土山で,nupuri は岩山だと云う人もある(サマニ)。[<tap-ka-o-p(肩・の上・にある・もの)?]
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.128 より引用)
ふむふむ。というわけで、ちょっと地形図とにらめっこをしているのですが、果たして tapkop と呼ぶに相応しい山はどれなのでしょう。達古武湖の北隣に細長い丘が東西に伸びているのですが、「円山」と呼べるかはちょっとびみょうな感じもします。ただ、この山は裾が絞られた形をしているので、ちょっと反則かも知れませんが、西からこの山を見ると「タㇷ゚コㇷ゚」っぽいのかも知れませんね。

ちなみに、達古武湖の最寄り駅が「細岡駅」と言うのですが、その名前の由来も忘れられているらしく、今回 tapkop じゃないかと考えた「細い丘」に由来するという説と、鉄道工事の際の監察官が「細岡さん」で、その方に由来するという説があるようですね(笑)。

チリシンネ沢川

chimi-sinne???
左右にかきわける・~のように
chimi-sinnot???
左右にかきわける・山崎(尾根)
(??? = 典拠なし、類型未確認)
標茶町に入り、国道 391 号の西側から北流して釧網本線の近くで釧路川に注ぎます。いわゆる horka (後戻りしている)な川ですね。

取り立てて特徴のある川では無いですし、さてどうしたものか……と思っていると、なんと「戊午日誌」にも「永田地名解」にも記載がありました(汗)。

並びて
     チヒ(リ)シン子
右の方小川。其傍に平山一ツ有。昔し崩れし処が追々高く成りし故号。チとは崩れる、リとは高い、シン子は其風に成ると云よし。元の風に成りしと云儀也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.505 より引用)
「チヒシン子」としながら、「ヒ」のところに(リ)とルビを振っているので、「あるいは『リ』が正しいのかもしれない」という認識があったということでしょうか。続けて永田地名解も見ておきましょう。

Chirishinne  チリシンネ  ?
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.339 より引用)
久々に伝家の宝刀「?」が出ましたね。ただ、幸いな事に続きがあります。

小水ノ崖ヨリ落ル處「チミシンネ」ナラント云フ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.339 より引用)
ふーむ。両者の言い分は大筋で一致しているようにも見えますし、細部で食い違っているようにも見えます(両論併記のように見えて同じことを繰り返しているだけの文章の例)。

「チヒシンネ」「チリシンネ」だと今ひとつ意味が掴みづらいのですが、「チミシンネ」だとなんとなく解釈できそうな気もします。chimi-sinne であれば「左右にかきわける・~のように」となりますが、sinne はあまり地名では見かけない単語のような気もします。chimi-sinnot あたりで「左右にかきわける・山崎(尾根)」といった解も考えられそうな気がしますね。

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