2015年11月22日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (300) 「ペイトル川・パラメム川・オビチャ川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。記念すべき連載 300 回目の記事ですが、いつも以上にいつも通りの内容でお届けします(汗)。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ペイトル川

上士幌町と士幌町を流れるウオップ川の支流です。同名の川がどこかにあったな……と思ったのですが、山の向こうの上川町を流れていたのでした(http://www.bojan.net/2014/02/01.html をどうぞ)。

上川の「ペイトル川」は pe-tuwar-pet で「水・ぬるい・川」だと思われるのですが、改めて「北海道地名誌」を見ると次のように記されていました。

 ペイトル川 安足間川の右支流。アイヌ語で川の間の意の「ペッ・ウト゚ㇽ」の訛。安足間川とパンケプイマナイ沢の間にあるからと思う。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.323 より引用)

現時点では、やはりこの解は誤りなのではないかと思うのですね。というのも、明治期の地図に「ペツトワラ」とあることと、東西蝦夷山川地理取調図にも「ヘトワラ」とあるので、このカナ表記からは pe-tuwar と考えるほうが自然だと思われるからです。

では士幌の「ペイトル川」はどうなのか……という話ですが、残念ながら小河川であるが故に古い資料を見つけられないでいます。ただ、上流部に温泉があるわけでも無さそうですし、サンケウオップ川とパラメム川の間を流れているので、今度こそ pet-utur(-pet?) で「川・間(・川)」と考えられそうかな、と思います。

パラメム川

ペイトル川のすぐ西隣を流れるウオップ川の支流の名前です。ウオップ川との合流部から 1.8 km ほど遡ったところで「パラメム川」と「パラメム小川」に分かれています。明治期の地形図には「パラメム」と記載されています。

では、今回も「北海道地名誌」を見てみましょうか。

 パラメム川 上士幌町から流れウオップ川に入る小川。広い湧壷の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.597 より引用)

そうですねぇ。音からは大体そんな感じのように思えます。地形図を見た限りでは泉地の存在は確認できないのですが、中流部から下流部のあたりはゆるやかな丘陵地を流れているので、伏流水も多いのかもしれません。para-mem(-pet?) で「広い・泉地(・川)」と考えて良いかと思います。

オビチャ川

ウオップ川の南側を西から東に流れる音更川の支流です。地形図で見た感じでは、中流部はかなり人の手が入っていそうな感じがしますね。

割と古くからある川名のようで、戊午日誌にも記載がありました。

またしばし過て
     ヲヒツチヤベツ
左りの方小川。其名義は不解也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.277 より引用)

ふーむ。東西蝦夷山川地理取調図にも「ヲヒツチヤヘツ」、明治期の地形図には「オピチャペツ」とありますね。続いて今回も「北海道地名誌」を見てみましょうか。

 オピチャ川 東ヌプカウシ山麓から東に流れ音更川右に入る小川。意味不明。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.597 より引用)

これまた「意味不明」ですね。うーむどうしたものでしょう。

手元の資料をあさった所、鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」に記載がありました。

 士幌町史は『オピチャペッ。オ・プッ・チャ・ペッ(尻・口・枝条・川)「川尻の口が数条にわかれている川」の意か(知里による)。帯茶とも書いた)』とあるが、理解しがたい。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.130 から引用)

ふむふむ。他ならぬ知里さんの解ですが、確かに地形図を見ると少々びみょうな感じもしますね。

オ・プッ・チャㇰ・ペッ(o-put-chak-pet 川尻が・口を・もたぬ・川) と解したい。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.130 から引用)

あーなるほど。確かに o-put-chak というのは慣用表現としてもありますし、なかなか巧い解ですね。隣のウオップ川と比べると河口部の流路も掘れていないので、河口部で伏流していたという可能性は確かにありそうな気がします。

ということで、o-put-chak-pet で「川尻・口・もたぬ・川」と考えて良さそうですね。

最後にネタ的な試案もお目にかけましょう。o-pitche-pet で「川尻・剥げている・川」というのはどうでしょうか。他ならぬ「音更」に「毛髪の生じる」という謎な解があるので、毛髪の無い川があってもいいんじゃないか……などと。

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2 件のコメント:

山口雅樹 さんのコメント...

ペイトル川の「水・ぬるい・川」は賛同します。源流部には温泉はありません。
厳冬期に夏と同じ胴長を履いて釣りをするのですが、水温が2~3度で足が冷えてしまいます。その後、ペイトル川に入ると暖かく感じます。湧水河川らしく水温が厳冬期でも6~7度水量も冬場でもそれなりにあります。ちなみに近くのシリクニ川は厳冬期は結氷します。

Bojan さんのコメント...

山口雅樹さん:

コメントありがとうございます。なるほど、上士幌の「ペイトル川」も「水・ぬるい・川」である可能性があるのですね。温泉は無いとのことですが、湧水がもとになっているので多少なりとも地熱で暖かくなっているということなのでしょうか。

こちらも大変参考になりました。今後共よろしくお願い致します。

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